浦和レッズOB選手が語る引退後のキャリアとサポーターへの特別な想い【さいたまサッカーフェスタ2023】

2023年10月22日(日)、浦和駒場スタジアムにて「さいたまサッカーフェスタ2023 Supported by 明治安田生命」が開催されました。本イベントは、さいたま市がJリーグおよびWEリーグの4つのチームを擁するホームタウンとしての特性を生かし「浦和レッドダイヤモンズ」「大宮アルディージャ」と共同で実施することで、『サッカーのまち』ならではの魅力を伝えることを目的としています。

浦和レッズ・大宮アルディージャのクラブOB選手による『OBスペシャルマッチ』をはじめ、「小学生サッカー教室」やウォーキングサッカーで両クラブOB選手やゲストと一般参加者が一緒にさいたまダービーを行う「浦和vs大宮 ドリームマッチ」、各種サッカー体験など、サッカーを「する」「みる」「まなぶ」「ささえる」をテーマに、多くの参加者がクラブOB選手との交流を楽しみました。

本記事では、さいたまサッカーフェスタのレポートと参加した浦和レッズOB選手3名にインタビューを実施し、イベントに参加した感想やそれぞれのセカンドキャリアについてお話を伺いました。

さいたまサッカーフェスタ2023

浦和駒場スタジアムは9時30分に開場し、スタジアム周辺には出店が立ち並びました。浦和レッズOBの盛田剛平さんが運営するラーメン屋「盛田軒~もりたラーメン研究所~」も出店し、まぜそばやカレーなど、ファン・サポーターは盛田さんの作る美味しい料理を楽しみました。

盛田軒~もりたラーメン研究所~

13時からは、浦和レッズOBと大宮アルディージャOBによる『OBスペシャルマッチ』が行われ、2-1で浦和レッズOBが逆転勝利。OB戦ならではの真剣さの中に遊び心がある試合で、ピッチから笑い声が聞こえることも。タレントとしても活躍する水内猛さんや浦和レッズ ハートフルクラブコーチを務める酒井友之さんらOBの実況解説も会場を大いに盛り上げました。ファンは懐かしいプレーを見ることができて感慨深い様子でした。

スペシャルマッチの後は浦和レッズユースGKコーチの塩田仁史さんの引退セレモニーも実施されました。両クラブの選手やファンの前で感謝の想いを伝えられました。

浦和レッズユースGKコーチの塩田仁史さん

最後は、両クラブのOB選手や現役のレディース選手と一般参加者がチームを組んでウォーキングサッカーで対決する「浦和vs大宮 ドリームマッチ」。クラブOB選手たちとの近い距離での交流は、笑顔と歓声がピッチから絶えず、参加者にとって特別な思い出となりました。

水内猛さん

浦和レッズ選手OB会

浦和レッズ選手OB会は浦和レッズに在籍経験のあるOBが集まり活動するJリーグでも有数のOB会組織です。2022年よりアルムナイ*専用サービスを利用して、クラブとOB選手の関係を引退後も維持・継続することに取り組んでいます。日本の大手企業を中心にアルムナイネットワークの構築が進む中で、アスリートも引退後にクラブや元選手同士でつながり、双方に価値を提供しあう取り組みが注目されています。そこで今回は、サッカー以外のキャリアを選択した浦和レッズOBに焦点を当てて、引退後はどのような取り組みをしているのか、OBOG会に参加する意義は何かなど浦和レッズOB3名にお話しを伺いました。

*アルムナイ・・・一般的には卒業生を意味する。企業においては退職者やOBOGを意味する。

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東海林彬さん

東海林 彬
埼玉県立庄和高等学校卒業後、2002年に浦和レッズへ加入。
現在は東武動物公園で庭園管理士をしている。

ー現在の活動について教えてください。

東海林:
東武動物公園で園内や樹木の管理を行う庭園管理士という仕事をしています。

ーどのような経緯で今のお仕事を始められたのでしょうか?

東海林:
私は全国大会などで実績を上げたわけではないのですが、埼玉県内の試合を見てくれたスカウトの方にお誘いいただき、浦和レッズに加入しました。18歳でプロの世界に飛び込んだものの、あまりに高いレベルにくじけてしまい、1年目の後半にはサッカー選手からの引退を決意しました。その後すぐに現在の仕事に就職して、早いもので今年で20年目になります。

ー他のチームへ移籍したり、リーグカテゴリーを下げてサッカー選手を続ける道は考えなかったのでしょうか?

東海林:
もちろん、まだ10代だったので現役を続けることも考えました。ただ、1年でも浦和レッズという素晴らしいクラブでサッカー選手になれたことには非常に満足しており、将来のことも考えて社会人経験を積みたかったため引退を決意しました。

ー今のお仕事には元々興味があって始められたのでしょうか?

東海林:
私自身、幼少のころから東武動物公園には良く遊びに行っていました。入社当時は動物のお世話をしてみたかったのですが、全く携わらず20年が過ぎました。(笑)

ー東武動物公園で浦和レッズとコラボしたことが話題になりました。引退後、浦和レッズに対してはどのような想いを抱いていたのでしょうか?

東海林:
正直、一生関わることはないだろうと思っていました。それでも、レッズには特別な想いがあり、引退してからは完全に1ファンとして試合を観に行っていました。スタジアムに足を運び一緒に練習していた方々のプレーを見るたび、浦和レッズの一員であったことが誇らしくなります。

ー「誇らしい」という気持ちがバラで浦和レッズのエンブレムを表現する取り組みにつながったのですか?

東海林:
そうですね。元々、花でレッズのエンブレムを表現したいというのはぼんやり自分の頭に浮かんでいたアイデアでした。在籍時からお世話になっていたレッズの方と話す機会があり、「レッズ花壇」の構想を話したところ、面白い!と言っていただけました。

本人提供:2018年(左)2019年(右)のレッズ花壇

ー引退後にさいたまサッカーフェスタのようなOBイベントに参加する良さを教えてください。

東海林:
現役時代に試合に出ることが叶わなかったので、当時憧れていた先輩方と一緒に試合に出られることはすごく光栄です。そして何より、ファンの前でプレーできることが嬉しいです。10数年サポーターとしてレッズと関わっていた私からすると、レッズの選手としてファンと交流できることは何にも代えがたい特別な時間です。1年間の在籍だった私をOBイベントに呼んでくださる浦和レッズには本当に感謝しています。

ー最後にレッズOBに向けて一言お願いします。

東海林:
OBイベントに参加できない方も多くいると思いますが、関わりを持ち続けていれば私のレッズローズのように、クラブとOB、OB同士で何か新しい取り組みが生まれることもあると思います。もっと浦和レッズを盛り上げていきましょう!

西澤代志也さん

西澤代志也
2006年に浦和レッズユースからトップチームに昇格。4年半の在籍後、栃木SCに完全移籍。
8年間栃木で過ごした後、沖縄SVへ移籍した。現在は栃木を拠点に農業に従事している。

ー現在の活動について教えてください。

西澤:
栃木SCに在籍していた8年の間に出会った仲間たちと「UTSUNOMIYA BASE」という農業プロジェクトを立ち上げました。農薬や化学肥料は使用せず、人と地球に優しい野菜を作っていく活動をしています。

ー素敵な活動ですね。引退前はスクールコーチをされていた中で、引退後はサッカー関連の仕事に就こうという想いはなかったのでしょうか?

西澤:
少しはありました。現役最後は沖縄SVというクラブのスクールコーチとして一般コースとプロ志望コースを指導していました。自分の今までの経験を基に子どもたちにアドバイスする中で、順風満帆とはいえない自分のプロサッカー選手としてのキャリアから、子どもたちに胸を張ってプロサッカー選手を勧めることができませんでした。自分自身、楽しかった経験と同じくらい辛く苦しい経験をしてきたからでしょうね。その当時はそんな悩みもあり、とりあえずサッカーとは全く別のキャリアを歩むことを決めました。

ーそこでなぜ農業を選ばれたのでしょうか?

西澤:
「何をやりたいか」でキャリアを考えてもサッカー以上に情熱を捧げられることにはもう出会えないかもしれないと思い、「誰とやりたいか」を軸に考えました。ちょうどその頃、栃木SC在籍時からよく遊んでいたBリーガーの渡邉裕規選手がコロナ禍で農業に関心を持つようになり、ずっと農家をしている遊び仲間も集めてみんなで「UTSUNOMIYA BASE」を立ち上げました。

本人提供:農作業中の服装はレッズカラーを取り入れることが多いという西澤さん

ーアスリートのセカンドキャリアで農業を始める方が少しずつ増えています。何かスポーツの経験が活かされているのでしょうか?

西澤:
正直、直接活かされていることはあまりないです。(笑)

ただ当時のファン・サポーターの方が野菜を買いに来てくれることはサッカー選手をやっていて良かったなと思います。レッズサポーターの方もよく買いに来てくれていますね。熱心に追いかけてくださるサポーターだけでなく、UTSUNOMIYA BASEが作る野菜のファンになってくれた後に私が作っていると知り、驚くレッズサポーターもいらっしゃいました。

三軒茶屋のマルシェに出店した時に、近くに住むレッズサポーターが来てくださって「あれ、もしかして西澤君だよね・・・?今野菜作ってるの?」って声をかけられて。(笑)

その方は近所だからと家からユニフォームを取ってきてくれたので、喜んでサインを書かせていただきました。

ー引退後にさいたまサッカーフェスタのようなOBイベントに参加する良さを教えてください。

西澤:
普段は農業ばかりやっているので、久しぶりにファン・サポーターの方々と交流したり、サッカーをすると気持ちがリフレッシュされます。現役時代にピッチでサポーターの方々と会話する機会なんて無かったので、個人的には非常に楽しかったです。

坪井慶介さん(写真左)とハイタッチする西澤さん(写真右)

ー今後、レッズと取り組んでみたいことは何かありますか?

西澤:
「UTSUNOMIYA BASE」の野菜やお米をレッズの食堂で出していただくことで、恩返しすることができるかなと思っています。レッズOBが作った野菜を現役選手やユース選手に食べて、コンディションの向上に少しでも貢献できればうれしいです。そうやって食べていただける品質のものを作っていきたいですね。

ー最後にレッズOBに向けて一言お願いします。

西澤:
レッズOBもレッズサポーターも全国にたくさんいると思うので、埼玉以外でもレッズOBイベントを開催できれば面白いですね!参加できるOBの顔ぶれも変わってサポーターの方からしても楽しめるのではないでしょうか。まずは宇都宮からお願いします!(笑)

永田充さん

永田充
柏レイソルでデビュー後、アルビレックス新潟を経て浦和レッズに加入。
日本代表経験もあり、優勝を果たした2011年アジアカップでもメンバーとしてチームに貢献。
現在は文化シヤッター小山工場に勤めている。

ー現在の勤務先と入社のきっかけについて教えてください。

永田:
現在は文化シヤッターに勤めています。

まだ現役選手を続けたい想いがある中で次のチームが決まらず、今後のキャリアについて悩んでいました。そのような状況のなかで前々から興味があった製造業について、製造業のコンサルタントを務めていた父に話を聞いていくうちにサッカーを続けるのではなく、新しいことに挑戦しようと踏ん切りがつきました。

とはいえ、まずは現場経験を積むことが大事だと考えました。製造現場を知らない私がいきなりコンサルタントにはなれません。そこで、製造現場の方々と話をさせてもらっているなかで、現役最後に所属していた東京武蔵野シティFCのスポンサーの文化シヤッターさんの工場を見学させてもらうことになりました。その後も文化シヤッターさんとお話しさせていただき、未経験の私が勉強するには適した環境だったことや工場長のお人柄に惹かれ、入社を決めました。

ーサッカー関係の仕事に就く選択肢は考えましたか?

永田:
全く考えていなかったです。選手としてはまだまだ続けたかったのですが、指導者やスタッフへの興味は何故かあまり湧かなかったですね。今までサッカーしかしてこなかったので、その強みを活かせるのはサッカー関係の仕事をすることだと思いますが、サッカーとは違う世界を見てみたいという想いがずっとありました。

ーJリーガーの約7割の人が引退後もサッカー関連の仕事に就くと言われている中で、民間企業への就職はかなり珍しいと思います。Jリーガーが民間企業へ就職することはどのような点で難しいと思いますか?

永田:
まず、情報がないですね。就職活動の仕方や必要なスキルなど当たり前に知られている情報がサッカー選手だけやっていると不足しています。それに、サッカー選手という職業柄、世間体を少し気にしてしまうところもあります。実際、「サッカー選手やっていたら今でももっと華やかな生活できるでしょ?」みたいに言われることもありました。(笑)
そのような華やかなイメージが一般企業への就職を難しくさせているのかもしれません。

本人提供:工場で勤務する様子の永田さん

ーアスリートが引退後に民間企業に入る際の不安の一つにスキルや経験が不足していることが挙げられます。永田さん自身は入社前に不安に思っていたことはありますか?

永田:
パソコンも触ったことがなかったので、漠然とすべて不安でした。ただ、文化シヤッターのみなさんはとても気にかけてくれていて、「そんなこともわからないのか」というスタンスの人は誰もいません。製造の現場ではまだ色んなことを教わる新人ですが、18年間プロサッカー選手をやってきたことをリスペクトしてもらっているからこそ、快く教えてくれるのかなと思います。

一方で、サッカー選手をやっていたからこそいまに活きていることも多くあります。例えば、現場の方々は職人気質であまり話さない方が多いです。サッカー選手って本当によく喋るので、あまり喋らないとされる僕でも、文化シヤッターではよく喋る側に入ります。(笑)

そこで、たくさんコミュニケーションをとったり、見たことない一面も引き出してみようとできるのはサッカー選手ならではかなと思います。

ーチームスポーツをやってきたからこそコミュニケーションの取り方を心得ているのですね。他にサッカー選手をやってきたからこそ活かされていることはありますか?

永田:
サッカーの後ろからパスを繋いでゴールへ向かうチームプレーは製造の現場とよく似ています。サッカーをやっていたら製造現場における「後工程がやりやすいように」という発想が自然と出てきます。

あとは浦和レッズのあれだけの大観衆の前でプレーしていれば、大抵のことは緊張せずにできます。(笑)
プレッシャーに負けず自分を信じるみたいな能力もサッカー選手ならではですね。

ー引退後にさいたまサッカーフェスタのようなOBイベントに参加する良さを教えてください。

永田:
今は普通のサラリーマンなので、ファンの前でボール蹴って歓声が貰えることの喜びはやはり特別です。先ほどのOB戦でゴールを決めた時は、一瞬サッカー選手に戻りたいとまで思いました。(笑)

こういう機会があるからこそ、リフレッシュして普段の仕事も頑張れます。

それに、私たちはもう選手ではないのでファンの近くで交流できます。引退してもなお会いに来てくれるファンに直接感謝を伝えられるのもOBイベントに参加する良さだと思います。

ー最後にレッズOBに向けて一言お願いします。

永田:
引退後の交流が今の仕事につながることもあると思うので、つながっていきましょう!

>>元浦和レッズ 都築龍太氏 × 水内猛氏が語る浦和レッズ選手OB会の創設秘話はこちら