モード2を目指す、さくら情報システム・技術開発部の挑戦「アルムナイは会社を変える起爆剤になり得る」

退職者と辞めた後もつながりを持ち続けようと、アルムナイ(退職者)の取り組みに関心を持つ企業が増えています。ただ、これまでに手をつけていない領域だからこそ、企業が会社制度として取り入れる上で、ハードルがあるのも事実です。

そのような中、有志や部署単位でまずは小さく、実験的にアルムナイネットワークをつくる事例も出てきています。

本記事では、自身の部署でアルムナイネットワークを立ち上げようとしている、さくら情報システム株式会社 技術開発部の島慎哉さんにお話を伺いました。

さくら情報システム株式会社 技術開発部 イノベーショングループ グループ長 島 慎哉さん
さくら情報システム株式会社
技術開発部 イノベーショングループ グループ長
島 慎哉さん
顧客のITサービス、業務アプリケーションを最前線で支えるITアーキテクトとして要求開発からアプリケーション開発、保守運用に至る各工程で、同社のソリューションを提供。現在は同社クラウドサービスを加速させるべく、サービス開発と技術開発を企画・推進。DevOpsの実現・アジャイルな組織・テクノロジーの融合によるイノベーション創出など、モード2組織実現を目指すべく日々新しいことにチャレンジ中
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アルムナイはモード2に移行するための行動の一つ

——島さんが「アルムナイ」に興味を持ったきっかけを教えてください。

2019年の秋に知人経由でハッカズーク代表の鈴木さんを紹介してもらい、その時に初めて「アルムナイ」という言葉を知りました。

ITエンジニアの世界では、スキルアップや新しい経験を求めて会社を辞め、次のステージに旅立つ人が多くいます。そういった人たちと個人的なつながりはありましたけど、会社と個人の関係性にも「退職の先がある」という考え方にハッとしましたね。

——最近ではIT業界でアルムナイネットワークを導入する企業が増えつつあります。アルムナビでもTISVSNの担当者の方にお話を伺いました。

私はある大手SIerがアルムナイネットワーク導入の発表をした時、衝撃とともに強い危機感を覚えました。同時に、世の中の潮流は間違いなくそっちに向かっていると改めて思いました。

——2030年にはIT人材が最大79万人不足すると試算されていますが、裏を返せばエンジニア個人はさまざまな選択肢の中から次のキャリアを自由に選択しやすい時代になりました。企業は自社のエンジニアのキャリアを見直すタイミングにあるように思います。

そうですね。世の中の流れは人材の流動性が高まる方向に進んでいて、特にエンジニアは自分がやりたい仕事を見つけやすい状況になっています。むしろエンジニアの場合、一つの会社での経験しかない方がネガティブに映る世界になりつつあるようにも思います。

——世の中全体の変化と会社の現状のギャップを埋める手段の一つとして、アルムナイネットワークを試そうとしているイメージでしょうか?

はい。あとは、私が所属している技術開発部という組織文化の原点にも大きく関わっています。技術開発部は、当時の役員2名が「世の中の流れに追随する部署としてモード2(※)の文化で考え、行動する部署である」と宣言し、2019年4月に発足した部署です。

※マーケティング・リサーチ会社のガートナー社が提唱している概念。拡張性・効率性・安全性・正確性を重視する、従来型のSoR、守りのITと言われるモード1に対し、不連続的で俊敏性・スピードを重視する、SoE、攻めのITがモード2と言われる

メンバーにもよく話すのですが、モード2のアクションは言葉で説明してもなかなか伝わりません。理解はしてもらえるし「いいね」と言ってもらえるけれど、実行となるとハードルがある。モード1の世界で売上を出せるビジネスがある以上、モード2の世界は当事者から見ると、自分たちとは違う世界であると受け取られて当然です。

でも世の中は明らかに変わってきています。「2025年の崖」でも語られている通り、システムインテグレーターにとっては、変化が求められる時代となりました。

誰かが要求するシステムを作り続けるのが下火になっていくのならば、自分たちが作ったシステムをサービス化し提供する側にシフトしなければいけない。顧客に先駆けて顧客が欲しいものを作ろうとするならば、やはり変化は必要ですよね。

そういう背景から作られた部署なので、「今考えているのはモード2か?」というのは常に自分に問いかけています。そうやって考えた結果、その一つがアルムナイだったというわけです。

——モード2に移行するためのアルムナイというのは、例えばどういうことでしょう?

これまで誰も考えていなかった退職後を、ビジネスの一環として考えるということです。

退職後も何らかのかたちでつながって、今までゼロ円だったところから数%でも売上に貢献できたり、自社のエンジニアの成長につながったり。今までになかった新しい価値が生まれる可能性があるというのはすごいことだと思っています。

さくら情報システム株式会社 技術開発部 イノベーショングループ グループ長 島 慎哉さん

ただ当社の場合、特に若手エンジニアが次のチャレンジのために退職を選択した場合、まだまだ手放しで喜んであげられる文化でないのも現実です。研修がしっかりしているぶん、時間とお金をかけて育てたエンジニアが辞めて次のキャリアに進むことへの複雑な気持ちがあることはすごく理解できます。

なかなか受け入れにくい話だとは思うので、退職者との関係性から何かしらの価値が生まれることを、実際にやって示して、実感してもらう必要性があると考えています。短期的に成果が出ることでもないので、ある程度時間をかけながら、「技術開発部として取り組みをはじめ、最終的に当社としてアルムナイに取り組んだらこういうことができる」という事実を作りたいと思っています。

「さくら情報システム以外の会社経験」に価値がある

——事実をつくるために、これからどのようなことをやっていく予定ですか?

大きく3つあって、1つ目はまず登録人数を少しずつ増やすこと。

2つ目は何かコラボレーションをして、会社に向けてその成果を発信したいです。具体的には社内ピッチ大会やハッカソンイベント、技術開発勉強会など、社内イベントにアルムナイの方に登壇をしてもらうことを考えています。

そして3つ目が、ベンチャー企業に転職したアルムナイと仕事をすること。会社対会社でお付き合いができるといいなと思っています。

——アルムナイとのビジネス連携や協業といった展開は、エンジニアは特に相性が良さそうですよね。

「さくら情報システム以外の会社経験」は、それだけで当社にとって価値だと考えています。開発スタイルなど、モノのつくり方自体はそれほど変わらないと思うのですが、つくったモノをどうビジネスに反映し、効率性や生産性を担保しているのか。そういったところは、アルムナイの皆さんの知見をぜひ伺いたいところです。

特に当社からベンチャーに転職する人は、エンジニアリングで勝負をしたい志向の人が多いです。そんなアルムナイとちょっと会話をするだけで、メンバーの考え方が変わる。エンジニアのレベルアップにつながると感じています。

——アルムナイネットワークの登録対象はどういう人ですか?

今は私や特定のメンバーが付き合いのあるアルムナイに個別で声をかけて、数珠繋ぎのように広めようとしています。

技術開発部のウェブページもあるので、そこにQRコードを載せることも検討したのですが、そうすると「会社の人事施策としてやっている」という色が強くなると思っていて。アルムナイの皆さんに正しくメッセージが伝わらなくなってしまうのを懸念しています。

これは私の感覚ですが、最初が重要だと考えています。始めの5〜10人ぐらいでうまく回れば、その後50〜100人ぐらいまでは何となくうまくいくイメージがある。でも最初の5〜10人で失敗してしまうと、その先が絶たれてしまうような気がしていて。

少し慎重になりすぎてしまっている気もしますが、これは会社に新たな文化を注入する起爆剤になる可能性を秘めた、当社にとってインパクトのある取り組み。良い文化を残しつつ、新たな文化を追加するという、少し壮大な活動なので、どうしても動きは重くなりますね。

絶対に避けたいのは「アルムナイ禁止」なので、自分の中ですごく迷いながらやっています。他のエンジニアリングに関する取り組みはもうちょっと俊敏に動けるのですが(笑)

かつて一緒に仕事をしたエンジニアと、会社を辞めた後も仕事がしたい

——島さんは、これからアルムナイの皆さんとどのような関係性を築きたいですか?

最終目標は、一緒に仕事をすること。外部パートナーとして仕事を依頼したり、アルムナイが今いる会社のプロダクトと連携したりといった展開ですね。

特にアルムナイが転職した会社と一緒に仕事をして、その際の窓口がアルムナイというのが理想の絵です。当社のことも、そのプロダクトのことも知っている人と仕事ができるなんて、強いに決まっていますよね。新規開拓は大変ですから、アルムナイにとっても良い話だと思います。

そして、そういう世界が実現すると、辞めた人に新しい価値が付きます。「アルムナイがいなかったらこの会社と仕事をすることはなかった」となったらいいですね。そうなれば会社もアルムナイネットワークを受け入れやすくなるはず。アルムナイの皆さんの存在が、さくら情報システムの新たな良さを見つけるきっかけになるような気がしています。

——さくら情報システムとして受けやすいのは、どのような提案ですか?

人事、会計、BPOといったバックオフィスの事業を幅広く展開しているので、そこを支えてくれたり価値を膨らましてくれたりする事業はウェルカムです。

例えば当社の人事・給与ソリューションでは、1500社超、50万人のお客さまにサービスを利用していただいています。そのようなお客さまにさらなる新たな価値を提供する必要がある。

しかし当社は残念ながら顧客の人事給与データ自体は保有していますが、周辺の人事機能はまだまだナインナップが少ない状況です。例えば、当社のコアになる機能をさらに高めてくれるHRテック企業などと、アルムナイネットワークを通じてコラボレーションできれば、Win-Winのとてもよい共創サービスができ上がると考えています。

実際、過去にアルムナイの方からサービスを紹介してもらったこともありますし、協業の可能性はたくさんあるのではと思っています。

——本日お話を伺っていて、貴社でアルムナイの取り組みを行うのは大きな出来事なのだと感じました。苦労も多そうですが、島さんのモチベーションはどこにあるのでしょうか?

いち社員としては「当社文化にない、今までやったことがないことに挑戦したい」というのがモチベーションですが、エンジニア個人としては「一緒に仕事をしたエンジニアと、退職後も仕事がしたい」というのが大きいです。

さくら情報システム株式会社 技術開発部 イノベーショングループ グループ長 島 慎哉さん

アルムナイの方は魅力的な人が多いんですよ。飲みにいく程度であればFacebookで十分なんですけど、SNSで仕事の相談はしにくいと感じていて。そういう意味でアルムナイネットワークを通じて仕事でも付き合えるようになるとうれしいなという想いがあります。

さくら情報システム・アルムナイへメッセージ

——最後に、アルムナイの方へのメッセージをお願いします。

今回のアルムナイネットワークは、さくら情報システムの人事制度ではなく、ITエンジニアの流動性という観点から必要性を感じて、技術開発部という一部門から生まれ、小さく取り組んでいるものです。「流動性が高まる中で、エンジニア同士が継続して付き合い、イノベーションを起こしていく試み」だと考えてもらえるうれしいですね。

将来的には会社全体の取り組みにすることを目指してはいますが、人事制度というよりは、あくまでエンジニアが主体となって行う施策にしたいと個人的には思っています。イベントなどを通じてアルムナイ同士がつながり、さくらアルムナイ発で何かが生まれる。

そんな未来を目指していますので、「アルムナイネットワークに参加したい!」と思ってくれた皆さん。気軽に私まで連絡ください。

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