Great Place to Work(R) Institute Japan の2018年度版 日本における「働きがいのある会社」調査で第2位に選出されたプランドゥシー。
今回は、そんな「働きがいがある会社」のアルムナイ・リレーション施策「Plan・Do・See Family Card」にクローズアップするとともに、そこから見えてくる、会社と個人の「関係価値」の重要性に迫ります。
PROFILE
株式会社Plan・Do・See
西久保 優羽 氏
トライデント 外国語・ホテル・ブライダル専門学校卒業。2007年株式会社ラビアンローゼ入社。婚礼サービスに携わった後、ウェディングプランナーを目指し、2008年株式会社Plan・Do・Seeへ転職。
その後2013年までの約4年半、THE KAWABUN NAGOYAにてウェデイングプランナーとして多くのお客様を担当。その後、勤務地を東京へ移し、結婚式後のお客様(クレインメンバーズ)の皆様に向けたイベント、広報の担当として勤務。Plan・Do・Seeのお客様限定のワークショップ「最高の結婚式のつくり方」や「最高のFAMILYのつくり方」のファシリテーターも務める。
CRM(カスタマー)もARM(アルムナイ)も本質は同じ
———「Plan・Do・See Family Card」は、退職後も社員向けの福利厚生を延長するという、国内ではまだ珍しい施策ですが、どういった目的・経緯で始められたのでしょうか?
もともと私たちは、当社が運営に携わるホテルやレストランなどの会場にて、結婚式および披露宴を挙げられたお客様に、「CRANE MEMBERS CARD」というメンバーシップカードを入会金・年会費・有効期限なしで発行しております。
このカードは、「結婚式・披露宴を挙げたら、それで関係が終わり」ではなく、結婚生活において「Plan・Do・Seeで良かったなあ」と感じていただける関係を続けていきたい、そのためにも、私たちの店舗がお客様にとっていつでも帰ってこられる場所であり続けたいという想いをかたちにしたものです。
そのご優待内容や付帯サービスは、「どうしたらお客様が気軽に立ち寄ろうと思えるかな?」という観点で年々充実させていっています。
「CRANE MEMBERS CARD」は、2009年に立ち上げたのですが、その議論の際、自然と「この『Plan・Do・Seeで良かったと感じて欲しい』『何年経っても、立ち寄れる場所でいたい』という想いって、お客様に限った話じゃなく、ともにPlan・Do・Seeで働いたアルムナイもいっしょだよね」という話になり、同時期に「Plan・Do・See Family Card」も開始することにしました。
———CRM(Customer Relationship Management)と表裏一体のものだったのですね。
はい、ですから、アルムナイへの優待内容も、CRANE MEMBER、そして、社員と同内容なんです。
かたちがあるから活きる、良い関係性の象徴『Plan・Do・See Family Card』
———実際のアルムナイの利用状況はいかがでしょうか?
もともとアルムナイは当社店舗に愛着がありニーズが寄せられていたこともあって、利用率は高く、ほぼ全員に活用いただいている状況です。
ちょっと前まで一緒に働いていた仲間なので、基本は何も言わなくても誰かが気付きますが、やはり、カードとしてかたちがあるのが良いようです。「アプリでいいんじゃないか」という考え方もありますが、仮に電子化したとしても、モノとしては残すことになりそうです。
カードというモノがお互いにとって良い関係の象徴で、アルムナイからすれば、Plan・Do・Seeで働いていたことをオープンに誇れるツールになるし、目に触れた時に「遊びに行こう」となるきっかけになったり、私たちからすれば「もっとアルムナイにできることってあるよね」と考え続けるモチベーションになったりすると思うので。
———私たちも「アルムナイ・ステッカー」というツールを提案して、「関係性の見える化」を重視しているので、その「モノとして残す」意義はよくわかります。続いて運用の話ですが、アルムナイへの「Plan・Do・See Family Card」の配布は、どんな対象範囲・流れ・手続きで行っているのでしょうか?
正社員が対象で、辞めて即時、全国の各勤務地での配布ではなく、半年に一回のペースで、本社から手紙付きで郵送しています。退職者が少ないのでそれくらいのペースで間に合っているのですが、皆さん「いつとどくのかな?」と楽しみにしてくれているようです。もちろん、カードが手元に届くまでの間も優待内容や付帯サービスは利用できるようになっています。
「アルムナイも身近な存在、仲間」という自然な発想
———「アルムナイ=裏切り者」とみなす企業さえ存在する中で、大切なお客様とほぼ同じレベルでアルムナイとの関係を構築しているというのは、アルムナイ・リレーションの見本となるケースだと感じています。こうした取り組みが自然発生的に生まれる背景として、どのようなカルチャーがあるのでしょうか?
創業当初から社長の野田(豊加)が率先して、社員の独立支援やそのバックアップをしていた、という経緯が大きいかもしれません。独立にあたっては、開業時における資金面はもちろん、その後も、知人・友人をそのお店に連れて行ったり、紹介したりなんてことも。
独立組ではなく転職組も、前向きなキャリアチェンジがほとんどで、いずれにしても良い関係のアルムナイばかりなんですね。ですから実は、改めて「アルムナイ・リレーション」とは構えてはおらず、当社にとってあたりまえのこと。アルムナイも身近な存在、仲間なんです。
———そもそも「退職=悪」という風潮が一切ないってことですね。
はい。独立支援も、やはり、独立できるくらい成長している先輩たちの背中を見ると若手も育ちますしね。
また、独立組も転職組も、Plan・Do・See の競合になったり、行ったりすることってほぼないんですよ。これは、皆さん Plan・Do・See では叶わない新しい目標を見つけたからこそ辞めているってことでもありますし、Plan・Do・See でのキャリアを大切にしてくれていて関係を続けたいと思ってくれているからこそだと思います。
実際、辞めた人もよくオフィスや店舗に遊びに来ています。その際、自分だけじゃなく、お客様を連れてきてくれたり、化粧品の試供品持ってきてくれたり、一緒に自社の 6th by ORIENTAL HOTEL へランチに行ったり。社内によく出入りしているパートナーの方が実はアルムナイだったなんてこともありました(笑)
他にも、退職後も Plan・Do・See の社内システムのパッケージを使ってくれたり、お互いの企業の研修受け合ったり、お花屋さんやカメラマンなどのパートナーとまた仕事したり、「これきっと Plan・Do・See に合いますよ!」と情報共有してくれたり、社員に寄せられたアルムナイの近況を全社にアナウンスしたりと、様々なかたちでつながっています。
———「競合になる=Plan・Do・See と同じことをやる」ということは、そもそも Plan・Do・See で叶う目標ってことですもんね。
はい、そういう意味でも、当社は出戻りのケースは少ないんです。配偶者の海外転勤に伴い退職したアルムナイが帰国して復帰したり、店舗のクローズに伴い退職したアルムナイが引っ越しなどで環境が変わり復帰したりとかですね。
感謝の言葉と握手で送り出す退職のセレモニー
———そんな良い関係のアルムナイの皆さんですが、区切りとして「退職」というイベントがあるじゃないですか。私たちは「退職エクスペリエンス」と呼んでいるのですが、辞意表明~退職時にどんな対応をしたか/されたかが関係性に大きく影響します。Plan・Do・See では何か、退職時に特別なことをしていますか?
まず、会社全体では、ちょっとネーミングが独特ですが(笑)、「握手の儀」というものがあるんです。辞める際、これまでの感謝の気持ちをしっかり伝えるとともに、これからやっていくことをヒアリングして応援できるようにしたり、逆に、今後もっと会社が良くなっていくように改善点を出してもらったりして、最後は「ありがとうございました」と握手をして送り出す、という儀式です。
また、店舗や部署など各現場も、盛大に送り出すというカルチャーがあります。花束贈呈はもちろん、映像作って渡したり、仕事終わりにどこかの店舗に集まって送別会を開催したりしていますね。
やはり、「一緒にやってきた仲間」という感覚があるので、単純にいなくなる寂しさはあるのですが、「仲間」だからこそ、新しいことに挑戦するならば納得して送り出そう、という自然な想いから来ているものだと感じています。
個人的に、転職するつもりも予定もないのですが、たとえ退職する時が来たとしても、嫌な辞め方をするイメージがまったくわきませんし、みんなも快く送り出してくれるんだろうなって想像ができます。
人材難/採用難の時代の「送り出し方」
———「送り出される側」としては最高ですが、逆に「送り出す側」としては、この「人材難/採用難」の時代だからこそ、さまざまな想いがあり、複雑な心境もあると思います。西久保さん自身の経験で何かその際の心構えみたいなものがあれば教えてください。
ちょうど勤務10年目の研修で、「部下からこんな相談を受けたら?」というさまざまなケーススタディをやったのですが、その中に「転職を切り出してきたスタッフ」のケースがあったんですね。
そこで、まず「私個人」としては、純粋に「そういうことなら応援したい」と思った一方で、「でも、会社としての立場を考えると、良い人材であればあるほど引き留めるべきではないか」というのも頭をよぎったわけです。
それで、一応人事に尋ねてみたんです(笑)。すると、「万が一マイナスな理由によるものだったら、いっしょに問題解決していくべきだけど、その人なりの目的があって、それが新天地で叶うならば、引き留めるのではなく応援しよう」と。
———それだけ「個」を大切にされているからこそ、結果、退職してからもアルムナイは会社のことを考え続けるのでしょうね。ともすると企業がアルムナイから得られるメリットばかり着目されがちな中で、「アルムナイ・リレーション自体に価値がある」ということがわかるすばらしい事例をお聞かせいただき、本当にありがとうございました。
私自身、Plan・Do・See が2社目で、前職は自分では良い辞め方をしたと思っていますし、キャリアとして誇っていますし、今でも元同僚とのつきあいは続いていますが、言われてみれば「対会社」としてのつながりは持てていないところがあります。今回のインタビューを機にそれを考える良い機会になりました。こちらこそありがとうございました。
株式会社Plan・Do・See
日本・世界の素敵な場所に、街の価値を上げ、関わる人すべてが誇りを持てる最高に心地よい空間をつくり、進化させ続けていく。というビジョンを掲げ、日本のおもてなしを世界中の人々へ届けるために幅広い事業を展開する企業です。
–株式会社Plan・Do・See 【プラン ドゥ シー】
–Plan・Do・See RECRUIT プラン ドゥ シー採用サイト
–プラン ドゥ シーの取り組み(2018年度「働きがいのある会社」2位にランクイン/社内支援制度一覧)
編集後記
Plan・Do・See は、まず「個」が非常に大切にされていて、会社という「組織」は良い意味で「境界が曖昧」だと感じました。アルムナイは、まさに「ウチ」と「ソト」の「際(きわ)」の存在ということもあって、この「曖昧さ」が「あたりまえのアルムナイ・リレーション」に効を奏しているのでしょう。
その「曖昧な境界」の象徴が、今回は大きくは触れられませんでしたが、本社オフィスの作り。なんとフリーアドレスどころか、執務室と応接室/会議室を隔てる壁さえないのです!
聞けば、「今、誰が来ていて誰が来ていないか、仕事しているかしていないかわからないくらいで良い」という考え方だそう。そして、この思い切ったレイアウト導入の際も、反対の声はなかったらしく、「曖昧さ」を受け入れるカルチャーの強さに脱帽です。
さらに、いただいた名刺の表に記載されているのは、なんとお名前のみ。いわゆる「肩書き」が載っていないのです。こちらも「いわゆる部署名・肩書きを担ぐと、その部署・肩書きの人になってしまい、自分で自分の仕事を規定・制限してしまうから」だそうで、ここにもその「曖昧さ」が生きていました(本社の皆さんは「なんでもやる課」という部署名らしいです)