今どきワークスタイル

(6)「アルムナイ」 同窓生の再雇用にメリット

【今どきワークスタイル】(6)「アルムナイ」 同窓生の再雇用にメリット
【今どきワークスタイル】(6)「アルムナイ」 同窓生の再雇用にメリット
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退職した元社員を同窓会に招いたり、退職後も関係が切れないようにネットワーク作りをする企業が出てきた。こうした取り組みは英語で「同窓生」を意味する「アルムナイ」のキーワードで呼ばれるようになっている。離職でスキルを眠らせていた主婦らの再就職から、転職でよりスキルアップした元社員の積極活用まで、アルムナイの力が求められている。

社風・理念に理解

保育サービスの「ポピンズ」(東京都渋谷区)は昨年12月、退職した保育士らを招き、初の同窓会「ポピンズアルムナイ」を開催。都内のホテルに約300人を招待し、同社を退職した保育士らと現役の社員・保育士らが旧交を温めた。その際、アンケートで「再度保育業務に就きたいか」などを尋ね、意向を示した人に連絡。約30人がポピンズで再び働くことを決めた。

9年ぶりに復帰した金田友美さん(40)は自宅近くの横浜市の認可保育所「ポピンズナーサリースクール綱島」で働く。かつて別のポピンズの園で保育士として働いていたが、結婚などを機に退社していた。

「子供が小学生になり、もう一度働きたいと思った矢先に同窓会があった。懐かしい元同僚と話して心も決まり、働く気持ちにすっとなれた」と金田さん。パートタイムだが、勤務歴を考慮して時給も少し上積みされ、「ありがたい。励みになる」とやる気だ。

同社執行役員の吉田敬子さんは「かつて働いてくれていた人は社風や理念への理解がある」と元社員の復帰を歓迎する。離職中の子育て経験も、「保護者の悩みに寄り添える」(吉田さん)と、プラスに捉えている。

即戦力を求めて

アルムナイ人材へのニーズは、結婚・出産による退職者に限らない。人材不足の中、社外で経験を積んだ元社員の知恵を借りたいという企業もある。人材総合サービスの「エン・ジャパン」の昨年の実態調査では、元社員を再雇用した経験があると回答した企業は72%。理由(複数回答)を見ると、安定した力量への期待と人材難の背景がうかがえる。

こうした中、退職した元社員との関係構築に特化したノウハウを提供する企業も出てきた。

平成29年設立の「ハッカズーク」(東京都新宿区)は元社員と継続的につながる仕組みを望む企業に、企業と元社員や、元社員同士で交流できるチャット機能など、オンライン上のネットワーク構築や情報発信を支援。サービス待ちの企業もあり、業務を拡大予定だ。

終身雇用の風土では「企業と働き手のお互いに心理的契約があり、離職は裏切りと見られてしまうことがあった」と鈴木仁志社長。「離職でつながりを断つのは企業にとっても働き手にとっても損。培ったスキルや人脈は切り捨てず、生かした方がいい」と話す。

企業にとっては人材の確保だけでなく、転職先との取引や協業が期待でき、元社員側も多角的な情報収集と仕事のチャンスの幅を広げることができる。

「アルムナイ人材のネットワーク化は今後、広がるだろう」と話すのは、人材マネジメントに詳しい転職サイト「リクナビNEXT」編集長の藤井薫さんだ。「企業の短命化が進み、今後、働き手は人生で複数の企業を渡り歩くようになる。構造的な人材不足の中、辞めても元社員と結びつき、里帰りしやすくしておくことが大切になる」と指摘した。

編集後記

会社を辞めることは、裏切り-。長らくあったそんな風土をなくしたい、とハッカズークの鈴木仁志社長は言いました。雇用の流動化が進む今、辞めてぷっつり切れるより、アルムナイのキーワードで、おおらかに、ゆるくつながり、いざというとき、知恵と力を貸し借りできる関係づくりは正解だと思えます。(津川綾子)

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