兆し発見 キャリアの共助の「今」を探る【座談会】つながりがくれた、人生のワクワク感

企業の外での「キャリアの共助」に関わることで、成長の機会や新たな選択肢の発見など、これからの仕事に関わる価値を手にしている人がいます。 
NPO、職業コミュニティ、企業アルムナイ、地域アルムナイに参加する4人に、つながりがくれた価値や共助への参加の仕方について、語ってもらいました。

参加は偶然のきっかけ

――皆さんはそれぞれ、どんなきっかけでコミュニティに参加したのでしょう。

本文中_牛堂さん.jpg牛堂 望美さん(以下、牛堂):私はNPO勤務を経て、今は東京スター銀行の経営企画部でCSRに取り組んでいます。幼いころから、世界から飢餓や貧困に苦しむ子どもをなくしたいという思いがあり、学生時代もボランティアをしていました。当時は新卒で入れる社会貢献系の組織が少なく、まずは民間企業に就職。その後友人の紹介でNPOの一種である公益社団法人セーブ・ザ・チルドレン・ジャパンに入り、東日本大震災の被災地にいる子どもたちの支援に携わりました。NPOをはじめとする社会貢献活動のコミュニティが、自分の「土台」になっています。

堤藤成さん(以下、堤):電通で十数年、コピーライターやデジタルプランナー、クリエイティブディレクターとして勤務した後、マレーシアにMBA留学し、現地で日本のスタートアップ企業にリモートワークというカタチで入社しました。昨年オランダに移住し、同じ仕事を続けています。電通アルムナイには、退職手続きの際に勧められた際に登録しました。リモートで働き始めてから、目の前の業務をこなすだけでは視野が狭くなると感じ、アルムナイが主催するオンライン座談会に参加したんです。そこで元電通のメンバーが米メガベンチャーへの転職や大学院進学、起業などさまざまな道を歩んでいることに感銘を受けて、それから徐々に関わるようになりました。

立崎直樹さん(以下、立崎):有料老人ホームの管理者を務めつつ、介護にかかわる人のコミュニティ「未来をつくるkaigoカフェ」に参加しています。主催者と介護関連の研修で偶然知り合い、誘われてよく分からないままに(笑)、行ってみたのがきっかけでした。
医療・介護関係者のコミュニティは飲み会が活動の中心ということも多いのですが、「未来をつくるkaigoカフェ」は真剣に介護について対話をします。介護について熱く語れる場は少ないので、いつも刺激をもらっています。

間藤一也さん(以下、間藤):僕は新潟出身で、専門学校を卒業後、上京して環境省に約6年勤めました。2017年に新潟市へUターンし、今は自営で歴史のライターをしながら、フェイスブック新潟県人会の「新潟市支部」、2017年に自分で立ち上げたサブグループ「歴史・まち探訪部」などの代表を掛け持ちしています。環境省在職中にUターンを希望するようになり、Facebook上で情報収集できるグループを検索したところ、新潟県人会が上位にヒットしたのが登録のきっかけです。

個人や組織の閉塞感を打ち破る

――牛堂さんはNPO、堤さんは企業アルムナイ、立崎さんは職業コミュニティ、間藤さんは地域アルムナイと、それぞれ共助のつながりを持っているわけですが、活動を通じて得られたことは何でしょうか。

間藤:フェイスブック新潟県人会のメンバーから、新潟市のU・Iターンに関する制度や新潟に定住する魅力、自営で仕事を始めた人の体験談を聞けたことが、Uターンの背中を押してくれました。フェイスブック新潟県人会に入っていなかったら、今好きな歴史を生かしたライターという仕事もできていなかったでしょう。だからこそ、今度は僕が、Uターン希望者と地元の架け橋になりたいと考えて活動しています。

★立崎さん.jpg立崎:介護スタッフは利用者以外に職場以外の人と関わる機会が非常に少なく、職場の閉塞感が強くなりがちです。介護分野では、次々と新しい取り組みやサービスが誕生していますが、外部にアンテナを立てていないと、その情報すら得ることができません。
kaigoカフェに参加し、在宅や病院などさまざまな立場で活躍する参加者との対話は、異なる価値観や考え方を知るきっかけになりました。職場のスタッフに、他事業所での実践事例などを伝えると、「私たちにもできるかも」と意識が前向きになり、新しい風を吹き込むこともできました。

堤:コミュニティで人とゆるくつながることの大事さに気づけました。特に昨年のコロナ禍では、海外にいて何かできることはないかと考え、電通アルムナイをはじめ現役の電通社員、プロボノで知り合ったNPOのメンバーなど、さまざまな知人に声をかけました。その結果、多くの人の協力を得て#TMJP2020というグループを立ち上げ、「日本の消費の現場を支援するためには」というテーマの勉強会を約20回開くことができました。

牛堂:私にとっても最も大きかったのは、職場であるNPOや、プロボノでマーケティングなどをお手伝いしたNPOで、多くの人とつながれたことです。彼らはみな、社会に関心をもち、社会貢献の現場に飛び込む行動力の持ち主で、私自身の枠を打ち破ってくれまし
た。NPO同士が協力したり、NPOと企業が協働したりして、オープン・イノベーションを生み出すダイナミックな現場に立ち会えたことも、貴重な経験でした。

安心が、キャリアを後押しする

――「コミュニティの力」を感じたのは、どんな時でしょうか。

間藤:連絡が途絶えていた小中学校時代の友人と、フェイスブック新潟県人会で再会できた、同窓会を開けた、という声を聴く時です。同級生と連絡をとりたくてフェイスブック新潟県人会に入った、という人はかなり多く、肌感覚ですがそのうち半分くらいは、実際に会えているように感じます。
東京で同年代の同郷人が周りにおらず、孤独を抱えて入会した人もいます。彼らはフェイスブック新潟県人会のつながりで不安を解消し、メンバー同士でイベントを企画したり、仕事で協力したりしています。

立崎:私も外とのつながりが、不安を解消すると実感し、若手の介護スタッフが組織を超えて参加できる小規模な介護カフェを立ち上げました。参加者からは「全然違う立場の人と話せて楽しかった」「仕事のモヤモヤが解消された」「同じ思いを持つ人がいて安心した」といった感想をもらっています。
ただ、介護業界は閉鎖的な風土に加え、人手不足で働き手を囲い込もうとする傾向も強く、横のつながりが育ちにくいと感じます。電通のようなアルムナイを歓迎する企業風土は、どうしたら生まれるのでしょうか。

堤:今は電通にかかわらずさまざまな業界で、退職者同士がつながることのタブーが薄れているようです。転職者の増加やリモートワークの普及、副業・兼業解禁の動きも追い風になっているのでしょう。介護業界でも成功事例を紹介することで、アルムナイがあると実はもっと安心して働ける、オープンな企業文化をアピールできて求人にも有利だし、離職者が戻りやすい職場もつくれると、理解してもらえるかもしれません。

――コミュニティでの経験は、仕事に生かされていますか。

牛堂:NPOで福祉の原則である「子どもの最善の利益を追求する」という理念が染みついたことが、仕事の根っこになっています。これはビジネスでの「顧客志向」に近いと思います。例えば、当行が子どもへの金融教育を本格化させたきっかけとなったのはある発達障がい児支援センターからの要望でした。最初は単に子ども向けの楽しいお金の講座をやってほしいという希望でした。しかし、子どもたちのお金にまつわる課題を深掘りしていくと、発達障がい者が抱える金銭管理などの深刻な課題が明らかになりました。そこで、単に楽しくお金の歴史や秘密を知れるだけでなく、お金の考え方や使い方も学べる講座にしたところ、センターの職員の方や保護者の方にも「子どもたちに本当に必要な内容だった」と大変喜ばれました。

座談会_間藤さん_35P差し替え用.png間藤:歴史・まち探訪部の活動が縁になり、新潟市のある町の地域活性化プロジェクトに呼ばれて参加しています。歴史を軸に地域創生と幅広い交流の場づくりをしたいという目標が、少しずつ形になってきたという手ごたえを感じています。

堤:電通アルムナイの事務局から地方創生の案件を紹介され、地方都市の店の経営者からの相談に対し、コーチングするという立場で関わるようになりました。私が働いているスタートアップでも副業は許可されているため、必要なら副業やプロボノで支援したいと思い
ますし、これからもいろんなチャレンジをしたいと思っています。アルムナイ事務局からこのようにイベントや機会をいただいて可能性が広がっていくというのは、これからの時代にあった素敵な取り組みだなと思います。

立崎:介護業界全体を俯瞰する視野が培われたことで、人材育成の必要性に気づきました。介護はチームで取り組むので、リーダーには部下とのコミュニケーション能力やマネジメントスキルが不可欠です。しかし実際はキャリアが長いというだけで管理者になるケースも多く、運営がうまくいかなかったり、スタッフが離職してしまったりしています。マネジメント力とリーダーシップの育成が介護業界を底上げする近道だと感じ、将来的にこの分野に関われればと思っています。

まずは、流れに乗ってみよう

――まだ「共助」のコミュニティを体験していない人に、アドバイスをお願いします。

牛堂:NPOはモチベーションやバイタリティ、社会貢献意識が高い人の集まりなので、ビジネスパーソンも一度身を置いてみると、働く心構えが変わると思います。社会のニーズを意識することで「顧客視点」の見方を養うこともできます。これからはビジネスセクターとNPOとの行き来も増えるでしょう。
ただいきなり転職するにはためらいのある人も多いと思うので、まずはプロボノやボランティア、副業などの形で足を踏み入れてみてはどうでしょうか。

立崎:足を踏み入れるという、その最初の一歩が、実は最も高いハードルなのかもしれませんね。ただ、私は自分自身できっかけをつかみに行ったというより、未来をつくるkaigoカフェの主催者に誘われるなど、たまたま流れてきたきっかけに乗った、という面が大きいです。
身の回りには結構、たくさんのきっかけが流れているはず。少しでも興味のあるきっかけがあれば、とりあえず乗っかってみるのも大事ではないでしょうか。

間藤:活動に飛び込みさえすれば、自分が変わるきっかけや、目指す未来図を見つけられると思います。僕の場合は、検索上位にたまたまフェイスブック新潟県人会が上がってきたという偶然の力と、歴史好きの新潟県人と集まりたいとの思いで歴史・まち探訪部を立ち上げた「自助」の力、半々というところです。

★堤さん.png堤:私のキャリアもすべてを自ら選択したわけではなく、家庭の事情に左右された面が大きいです。マレーシア留学も、妻が現地でインターン先を見つけて働き始めたので、家族と暮らすために決めました。
MBA卒業後は、そのまま家族で海外で暮らしていくために、リモートで働ける今の会社に転職し……と、数珠つなぎでものごとが動き出した感覚です。興味のあるグループを探して入会のタブを押す、その最初のワンクリックには、どうしても「自助」の力が必要です。本当に小さな一歩でいいので、気軽に踏み出してみてほしい。そのワンクリックで、ワクワクできる人生が開けるかもしれないのですから。

聞き手:千野翔平
執筆:有馬知子