現役社員・アルムナイ双方に学びと気づきをもたらす、三井住友海上火災保険の社内ビジネスコンテスト。それぞれが参加して得られた価値とは?

2022年9月、アルムナイネットワークをスタートした三井住友海上火災保険。同社では、2019年度から毎年、全社員から新たなビジネスアイデアを募集する「チャレンジプログラム」が行われています。本プログラムにはアルムナイも関わり、審査員やアイデアに対するフィードバックを担当しています。今回は、2022年度チャレンジプログラムの実現化候補案件に選ばれた受賞者と、フィードバックを担当したアルムナイにお話を伺いました。現役社員はアルムナイからどんな気づきを得られたのか、アルムナイは在籍していた会社と関わることで何を感じているのでしょうか。

>>「社員と同じ目線で知恵を絞ってくれるのがアルムナイの強み」チャレンジプログラム事務局のインタビュー記事

【プロフィール】


大石隆晴さん(写真左)

2010年入社。企業火災新種損害サポート部に配属。首都圏損害サポート部等を経て、2022年度のチャレンジプログラムの実現化候補案件に選ばれビジネスデザイン部に異動。現在はアイデアの実現化とデータビジネスを進めるにあたってデータ利活用の整備に携わる。

植平梨加さん(写真右)

2022年入社。企業営業第一部第三課に所属。1年間、企業営業を担当した後に2022年度のチャレンジプログラムの実現化候補案件に選ばれビジネスデザイン部に異動。現在はアイデアの実現化に向けて、社内外の意見を取り入れながら内容をブラッシュアップしている。

南谷克実さん

1996年入社。4年間、大阪・岸和田支社で営業職として勤務した後、東京の本店へ異動。デリバティブや投資業務に携わる。企業派遣研修生としてMBAを取得したのち、火災新種保険部へ。2007年に退職し、同年6月にソニー株式会社へ入社。グローバル本社の戦略スタッフとしてM&A含む投資・アライアンスの戦略策定、案件実行に従事する。現在は同社グループ内、半導体事業における新規事業を立ち上げる事業部の事業企画を統括。

実現化候補案件に選ばれたアイデアとアルムナイからの評価

ーー大石さんと植平さんが、チャレンジプログラムに応募しようと思ったきっかけを教えてください。

大石:私は3年前から毎年、チャレンジプログラムに参加していました。最初は、損害保険を題材にした大航海時代のゲームを作ろうといったアイデアから始まり、3年かけて、たとえば京都先端技術大学と提携して行っているMS&ADデジタルカレッジfrom京都や、MS&ADシステム×デザイン思考の研修を受講するなど、自己研鑽をしていきました。

今回、実現化候補案件に選ばれたアイデアが生まれるきっかけとなったのは、後者の「MS&ADシステム×デザイン研修」です。2022年に受けた同研修は「誰も見たこともない、聞いたこともないDX技術を用いた防災・減災を考える」というテーマでした。研修の中チームメンバーと盛り上がったのが「スマートトイレ」のアイデアで、スタートアップなどを調べつつ、どうやって作ったら面白いかをメンバーと相談しながらアイデアをブラッシュアップしていきました。

植平:私は就活時のインターンシップを通じて、入社前からチャレンジプログラムの存在を知っていました。この制度があることも入社のきっかけになりました。保険会社というと保険の販売や、保険金のお支払いにフォーカスしがちです。しかし、当社のインターンシップでは、保険以外の新しい価値を創造して提供することを重視しており、そこに魅力を感じました。私は若年層の健康意識の低さや無保険率の高さを課題としてアイデアを提案したのですが、自分自身、生活習慣の改善の重要性を実感していたことが応募のきっかけです。もっと多くの人にこの重要性を伝えていきたいと思い、さらに保険との親和性も非常に高いと考えていたので応募しました。

ーーお二人が提案されたアイデアについて詳しく教えてください。

大石:私が提案したのは「DX技術のアライアンス化によるスマートトイレ構想」です。「人工筋肉」というゴムが空気の力で伸び縮みする技術を使って、水なしでも汚れにくく、清潔なトイレを作ろうというアイデアです。これは災害時の避難先や建設現場で使用されることを想定しています。東日本大震災や熊本地震でもあったケースですが、災害時、避難先でトイレの使用をためらう女性がエコノミークラス症候群や膀胱炎等に陥る2次災害が深刻化しました。

また、建設現場で仮設トイレを日常的に利用したくないと考える女性がおり、女性の雇用や現場進出が進まないという社会課題があります。こうした女性の社会問題を解決する効果を期待しています。将来的には駅構内などの女性トイレが足りないようなところでの利用や、アジア・世界に提供する可能性もふまえて提案しました。

植平:私は20代〜30代の若年層を主なターゲットとして、若年者の健康意識や生活習慣の悪化、そして無保険率の低さを課題と捉えました。提案したアイデアは、当社がフィットネス業界や医療機関などと提携し、生活習慣改善のためのプラットフォームを作って、ユーザーに提供していくというビジネスです。

このビジネスを通じて、多くの人の健康意識や生活習慣の改善が見込め、提携する企業価値の向上にも貢献でき、さらには弊社の成長ビジョンであるSX(サステイナビリティー・トランスフォーメーション)に基づいた取り組みが行えると考えています。また、バーチャル空間で自分自身の体型を3DCG化し、理想の姿に近づくための運動や食事を提案するといったゲーム要素の高いサービスもつけることで、より若年層の人に刺さる商品になるのではないかと考えました。

ーー南谷さんがお二人のアイデアを評価されたポイントを教えてください。

南谷:大石さんのアイデアは、着眼点がすごく面白かったです。他のチームのアイデアはどうしても「保険」に縛られているという印象でしたが、大石さんはそこに閉じない形でビジネスを組み立てようとされていたのが印象に残っています。SDGsでも「安全な水とトイレを世界中に」という項目が掲げられていますが、実際のビジネスではまだまだ起こってきていないところ。大石さんのアイデアのように、外部から技術を持ってきて、自分たちが持つケイパビリティと合わせてビジネスを組み立てていくのは非常に良い発想でした。さらに日本に閉じず、海外へスケールすることについても他のチームとは異なるアプローチでご説明されていて、評価につながりました。

あえて一つ注文をつけるとするなら、このトイレを特約付帯で提供するとなっていた出口です。せっかくアイデアが壮大なので、そこは出口を保険に縛られずに、もっと大風呂敷を広げてもいいんじゃないかと感じました。ここはこれからの大石さんのアイデアでどんどん広がっていくことを期待しています。

植平さんの提案も、強く印象に残っています。当初は具体的な提携先の企業名があり、そこに閉じた形でプレゼンを組み立てられていましたが、一旦その枠組みを外してより広い形でビジネスを組み立てられて、サービスのイメージがかなり進歩しました。評価のポイントは、若者の無保険率を社会的な課題として捉えていることです。今日、若い人は保険に入ってないのが社会的なトレンド。それは保険が無価値だと思われているわけではなくて、単に保険について知らないからという面もあると思います。そうした、ちょっとしたことでリスクを負いやすくなっている状態を減らしたいという、非常にいい着眼点だと思いました。

また、入社1年目の方でも積極的に参加できるプログラムがMS&ADグループの中にあるということに感銘を受けました。当初、事業化は難しいかなと思いましたが、プレゼンから植平さんの強い思いが伝わってきました。ビジネスは結局、やりたいという思いが原動力。だから「ぜひ植平さんのアイデアを」と、事務局の方々に推薦させていただきました。

「せっかくもらえたチャンス、自分なりに全力でやってみて」アルムナイからのアドバイス

ーー大石さんと植平さんは実現化候補案件に選ばれた後、実際に部署を異動されました。現在はどんなお仕事をされているのでしょうか。

大石:スマートトイレ構想の実現化に向けて取り組んでいます。新規事業に取り組むにあたっては、本当にアイデアを実現できるのかと日々自問自答しますし、他者からも評価されます。それでも毎日少しずつ形にしていく、そのプロセスがすごく大変だと思っています。

植平:私も主に自分のアイデアの実現に向けて、上司や先輩方とアイデア内容のブラッシュアップをしています。部署を異動してからは「自ら考えて行動しなければ何も生まれない」ことを痛感しています。仕事が降ってくるわけではなく、自分で動いて自分で考えないと何も生まれません。多様な価値観や幅広い視野を身につけるためにも、社内外問わず積極的に動くことを意識しています。

ーー南谷さんからお二人に、アドバイスはありますか。

南谷:私も、MBAに行かせていただいた期間など、ルーティーンの仕事を持たずに自分で自由に時間や仕事を作れるという経験をさせてもらったことがあります。そういう自由な時間と、自分で事業を考えられるような環境を与えてもらっていること、わたしの個人的な感覚では、これは会社に対して感謝すべきことと考えていました。社会人になると、そういう経験をしたくてもなかなかできませんし、時間も取りにくい。機会をもらえたとしても、自分で目標を作って成果も示さなければならないし、周りからは遊んでいるように見えるかもしれません。でも、せっかくもらえたチャンスですから、会社や支えてくれる人たちにどう恩返ししていくかを念頭に置いて、自分なりに全力でやってみてほしいです。

事業化できればもちろん良いですが、もしできなかったとしても、その時の考え方や、支えてくれた人たち、社会とのやりとりなど、作り上げたネットワークは今後、一人の人間として生きていく上で大事な経験になります。私もそういう経験を三井住友海上でさせていただいたので、少しでも恩返しできればと思い、こうして参加させていただいています。

アルムナイからの評価がモチベーションにつながっている

ーーアルムナイの立場から、チャレンジプログラムに期待していることを教えてください。

南谷:保険会社の社会に対する存在意義というと、人々のリスクを取りやすくするとか、金銭的な面で困った人を助けることができるとか、さまざまな観点で語られていますが、保険は目に見える商品や技術があるわけではなく、漠然としている印象を持っていました。だから、私は保険会社にいた時、会社の存在意義や自分なりの仕事に対する意義がなかなか見つけられませんでした。

でも退職して、保険業界を外部から見てみると、保険会社のコア・コンピタンスは“人”であることに気づいたんです。保険会社には金融とビジネス、両方の知識を備えた人がいる、唯一無二の業界です。金融の知識は業務をする中で身についていきますが、自分がビジネスを通じて何を実現したいのかを考えるには、意識的に時間を作ったり、調べたりすることが必要ですし、会社もそれを受け入れる土壌ができていなければなりません。だからこそ、その人の能力を伸ばしたり、チャンスを与えたりする取り組みが非常に重要になります。

大石さんと植平さんのお話を聞いても、まさにそれぞれのやりたいことや、得意技を伸ばすような取り組みの一つとしてチャレンジプログラムがあると感じます。こういう取り組みは会社にとっても、利用する人にとっても絶対にメリットになります。どんどん活用されて、保険の枠を飛び出すような方々が三井住友海上からもっと出てくると、より強い会社になるはずです。

ーー大石さん、植平さんは、チャレンジプログラムを通してアルムナイと関わることで、何か得られたことや新しい気づきはありましたか。

大石:「保険会社がモノを作る」という私のアイデアは、旧来の日本の金融会社ではなかなか受け入れられなかったと思います。それをものづくりの会社・ソニーにいらっしゃる南谷さんに見ていただいて、「やってみよう」「面白いじゃないか」という評価をいただいたことが、今のモチベーションにつながっています。また、弊社での経験があるからこそ「保険のプランという枠組みに縛られずに、もっと大胆にアイデアを考えていい」という具体的なコメントもいただけて、励みになりました。今後も南谷さんのあたたかい目と厳しい評価を受けながら、頑張っていきたいと思います。

植平:他者の目線から、違う切り口で意見をいただけたのは、本当にありがたかったです。アイデアを考える時、自分のこれまでの体験をもとにした主観的な考えに偏っていました。しかし、コンセプトに沿っているのか、保険ニーズの捉え方、ターゲットに本当に刺さるのかといった的確なアドバイスをいただいて、客観的にアイデアを見直すことができました。アルムナイ審査だけでも勉強になることがたくさんあり、非常にありがたい機会でした。

ーー南谷様も、アルムナイの視点から気づきがあれば、教えてください。

南谷:やはり退職してから20年近く経つと、会社はずいぶん変わるなと感じます。わたしが在籍していた当時は、新しいアイデアが言いにくかったり、それが受け入れられる土壌や仕組みがあまりなかったと思います。でも、三井住友海上が先進的にいろいろな制度を取り入れていることをニュースでも頻繁に目にするようになり、すごくうれしく感じるとともに、会社が変わっていこうとしていることを感じます。制度を導入するのは限られた人間ですが、それを活かしていくのは、まさに参加する社員。制度という箱を作るだけではなくて、実際にその箱を利用してどんどん自己実現をしていこうという人が増えていると強く感じます。私自身にとっても学びや気づきが得られる機会となりました。

今後の抱負

ーーお二人の今後の抱負を教えてください。

大石:まずは候補案を実現化することです。それからデータの利活用について、まだまだ整備も活用も進んでいませんので、そちらを進めていきたいです。

植平:私も、まずは自分のアイデアを保証前後のソリューションとして実現化していくことが目標です。それから、社会のニーズや新しい情報にもっと敏感になりたいと考えています。いち早く情報をキャッチし、ニーズに的確に答えていけるように成長していきたいです。

南谷:お二人は異動されて、考えることや悩みも増えてくると思います。でも、やっぱりチャレンジできる環境は貴重ですし、この経験はお二人の血となり肉となるはずです。この機会を存分に活かしていってください。私にできることであれば、何か困ったことがあればいつでも人につないだり、技術的にサポートしたりもできると思います。一人で悩むと大変ですから、いろんな人を巻き込みながら自分のやりたいことを進めていってください。

※こちらは過去、三井住友海上火災保険に在籍していた方専用のネットワークです