採用ミスマッチが起きる原因と対策 | ミスマッチが起きにくい採用方法とは

採用ミスマッチは起こらないに越したことはありません。ただ、その原因や対策を掘り下げてく前に、具体的な損失の度合いを把握することから始めましょう。

この記事では採用ミスマッチの原因と定量的なコストを説明すると同時に、その対策や採用ミスマッチを減らすトレンド採用手法について解説していきます。

いずれも人事・HR領域の最新トレンドを意識して解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。

採用ミスマッチで発生するコストはどれくらい?

採用ミスマッチは起こらないに越したことはありません。ここでは、ミスマッチで離職者が出たと仮定し、実際にどの程度の損失が企業に生まれてしまうのか定量的に確認していきましょう。

まず、時間の面で、社員が短期間で離職してしまうと、採用にかかった時間と社員研修に要した時間、この双方が無駄に浪費されることになります。特に新卒採用の場合は、平均3カ月程度の新人研修を行う企業が多いとされています。

そこで、1日当たりの研修時間(8時間)×3カ月の勤務日数(60日)で計算すると、新人研修に当てた時間はトータルで480時間。さらに、採用面接や入社前フォローに要した時間が10時間、半年間の新人研修以外の研修時間が10時間とするなら、新卒社員が入社から半年で離職した際に生まれる時間的損失は約500時間と算出できます。なお、技術系職種の場合は、研修に費やす時間がさらに長期化する傾向があります。

次に、社員が同じく半年で離職する際の金銭的損失を整理していきましょう。ここで社員1人当たりにかかるコストは、採用コスト・人件費(給料など)・教育研修費の3項目となります。

採用コストについては、さらに外部コストと内部コストに分けられます。外部コストとは、求人広告費や人材紹介会社への報酬、パンフレット印刷、会社説明会の会場等に係る費用です。内部コストは、採用に関わる社員の人件費、応募者に支給する交通費、内定者との交際費などを含んでいます。こうした諸々の費用を合わせた採用単価は、新卒の場合70万円、中途の場合80万円前後が相場です。

次に人件費の計算は、新卒初任給22万円、中途36万円という平均的月収を想定。3つ目の教育研修費では、研修を外注した場合のコストはもちろん、人事や現場社員の人件費等をまとめて算出し、新卒採用なら15万円程度が相場となります。一方、入社時点で新卒より必要スキルが備わっている中途採用は、教育研修費を1人当たり5万円と定めます。

以上を合わせると、

新卒採用:採用単価70万+半年分の人件費132万+教育研修費15万=217万円

中途採用:採用単価80万+半年分の人件費216万+教育研修費5万=301万円

このように、入社した社員が半年後に離職すると、新卒採用1人の場合200万円以上、中途採用1人の場合300万円以上の損失となり、軽視しがたいダメージを企業は被ってしまいます。 また、上記で求められた金額は、機会費用の概念を反映したものではありません。例えば、生産部門からの離職であれば、定着した社員が長期的にもたらすはずの売上を実質的に失っている点も考慮すべきです。

こうした観点も含めると、採用ミスマッチが招く損失は、ここで算出した金額以上の水準に及ぶと解釈できます

採用ミスマッチが生じる原因とは?

採用ミスマッチは、企業と応募者間の認識や期待のズレなど諸々の要因から生じます。ここでは、採用ミスマッチが起きてしまう原因を、新卒採用と中途採用のケースに分けてピックアップしていきましょう。

新卒採用

新卒採用で起こり得る採用ミスマッチの原因は以下の通りです(中途採用でも同様に当てはまる場合があります)。

企業のポジティブな情報ばかりを伝えすぎている

1つ目は、求人広告や説明会で、企業の良い面のみを限定的に伝えていないでしょうか。ポジティブな情報ばかりに触れた求職者は、入社後に想像とのギャップをより強く感じる傾向があります。求人側からすれば、なるべく求職者に良い印象を与えたい、応募に前向きな気持ちになってもらいたいと考えるのは自然です。

しかし、その代償として、企業と正しくマッチングできていない人材が高確率で入社することになるでしょう。そうした状況は、新入社員のモチベーション低下や早期退職につながり、上述のような時間やコストの多大な損失が生まれる結果となります。

学歴や保有資格を重視した形式的採用

学歴や保有資格(スコア)も、応募者が一定のスキルや能力を有する目安となるのは確かです。ただ、そうした書面上のデータが、企業とのマッチングを保証してくれるわけではありません。例えば、高学歴の応募者でも、企業の求める実務スキルが不十分だったというケースもあります。

また、英語能力試験は高得点だが、スピーキングはかなり不得手というパターンも散見されるでしょう。

このように、形式的な情報ばかりに囚われず、実際の面接でのやり取りや企業風土との相性などを総合的に見て判断する必要があります。

入社前や入社後のフォローが不足している

入社前や入社後のフォローが不十分であると、やはり採用ミスマッチを生む要因となります。そもそも、入社前と入社後のギャップを全く抱かない新入社員はほとんどいないでしょう。また、ある程度適性が見込める社員でさえ、新社会人として向き合う日々の業務は、想定以上のストレスを生む可能性があります。

例えば、新卒1年未満の退職理由を尋ねたアンケート結果によると、「人間関係が悪い」が回答の3割以上を占め、「長時間労働や休日日数への不満」「仕事内容が合わない」なども上位の理由として挙がっています。

会社の事情により早期対応が難しい一面もあるかもしれませんが、いずれも人事や現場社員がフォローを行うことで改善への糸口を見いだせる項目ばかりです。

中途採用

続いて、中途採用で起こり得る採用ミスマッチの原因は以下の通りです(新卒採用でも同様に当てはまる場合があります)。

転職者の申告を鵜呑みにした採用

転職者の申告内容を鵜呑みにして採用してしまうと、入社後、期待通りの成果がほとんど得られないケースがあります。これは、少しでも採用の可能性を上げたい転職者が、自らのスキルを実態以上に誇張して申告することがあるからです。特に中途採用の場合は、職務経験のない新卒や第二新卒と違い、一見したところ、かなり充実した経歴書を作成することも不可能ではありません。

また、採用予定の職務に精通していない人事担当者は、転職者の申告を全面的に信用しやすい立場にあると言い換えられます。こうした傾向を踏まえ、応募者の能力を適正評価できるよう工夫して対処する必要があります。

採用の要件定義ができていない

会社が求める人材の要件を明確に定義していないと、やはり採用のミスマッチが起きやすくなります。募集・採用時の客観的基準が欠けているため、なかなか希望する人材が集まらない、せっかく採用しても想定ほど活躍してもらえないといった事態に直面するでしょう。

また、定性的判断に依存した採用が常態化するリスクがあります。これでは面接担当者の私的好みが反映されやすくなり、結果的にミスマッチした新入社員の採用例を増やしてしまうのです。

「中途採用=即戦力」という期待値が高すぎる

中途採用なら「入社直後から当たり前のように活躍できる」と、中途採用の即戦力化を期待し過ぎているケースがあります。仮に、長いキャリアを積んだ有望な人材だとしても、職場環境や社内ルールが変わるだけでスムーズに適応できるとは限りません。そうした事情に受け入れる側が理解を示すのはもちろん、新しい環境に馴染めるよう、転職者のための研修制度・相談窓口などを通じてサポートする必要があります。

採用ミスマッチを未然に防ぐための対策法

採用のミスマッチを未然に防ぐには、企業と応募者間の認識や期待のズレを最小限に止める取り組みが必要です。ここでは主な対策法を、新卒採用と中途採用のケースで分けて紹介していきましょう。

新卒採用

新卒採用時の採用ミスマッチを防ぐための対策は以下の通りです(中途採用でも同様に当てはまる場合があります)。

採用ターゲットやリアルな会社情報をできるだけ開示しておく(RJP)

採用ターゲットを明確に提示しておけば、求職者自ら応募段階でマッチしているか否かを主体的に判断できます。明確ではない採用ターゲットの記載例は、「実務経験者歓迎」「やる気があれば未経験可」のように応募者本人がその適性を絞り込みづらい表現を指します。

逆に、「〇〇系の実務経験〇年以上もしくは○○資格保持者」「成長意欲が高く、チャレンジ精神が旺盛な方」といった書き方であれば、求められる人材の具体的イメージを描きやすいでしょう

また、応募者に対して、仕事のデメリットや厳しい面もオープンに伝えることが大切です。会社の長所のみならず、ネガティブな情報を公開することで、長期的には採用のミスマッチを減らし、離職による機会損失の発生などを回避できます。

こうした手法は「RJP」とも呼ばれており、採用力アップにつながる施策として注目を集めています。

>>RJP理論とは?採用ミスマッチ防止に退職者の存在が重要なワケとは

適性検査など客観的データを有効活用する

新卒採用では、採用の参考になる経歴が乏しく、面接の限られた時間で求職者のパーソナリティを正確に掴むことは困難です。

そこで、適性検査などの客観的データを有効活用して、採用プロセスの精度を高めていくやり方があります。例えば、面接前に適性テストを応募者に回答してもらい、その結果を踏まえて面接に臨めばより踏み込んだ質問等を用意できるでしょう。

適性検査は、全員を客観的に評価できる点で役立つばかりか、表面的なコミュニケーションでは把握しづらい、個人の価値観や組織との相性を探ることができます

体験入社やインターンシップを導入

新入社員と企業間の一定のギャップは、入社前に解消できていればそれに越したことはありません。そのためには、体験入社やインターンシップ及び懇親会のような取り組みが有効です。体験入社やインターンシップは、各企業で制度の仕組みや待遇が異なりますが、体験入社は実際の業務に取り組み、最終面接や内定通知前のタイミングで実施されているケースが目立ちます。

このような制度を経て入社した新入社員は、実際の働き方や雰囲気などを一通り体験している分、採用ミスマッチ回避と離職防止の面で確かな効果が期待できます。

また、インターンシップで確かなポテンシャルを示した学生には、競合に先んじて、企業側から積極的にアプローチできる点も魅力です。

中途採用

中途採用時の採用ミスマッチを防ぐための対策は以下の通りです(新卒採用でも同様に当てはまる場合があります)。

リファレンスチェックを導入する

求職者の情報を第三者に照会できるリファレンスチェックは、採用のミスマッチ防止対策としてお勧めできます。応募者本人の主観以外の評価を収集できるメリットがあるほか、経歴書などの記載事項が事実に基づいているかのチェックも兼ねることができます

また、こうしたサービスで入手した情報は、応募者入社後の育成やマネジメント手法において有効活用することも可能です。

あらゆる要素で採用基準を明確化しておく

スキルと価値観・パーソナリティの両面で採用基準を明確化し、その基準を面接担当者間で共有することが重要です。中途採用ではスキルを満たせば採用されやすい傾向があるかもしれませんが、社風や企業文化との相性も考慮しなければ、そのスキルを存分に発揮することは難しくなるでしょう。

採用基準が定まることで、一定のマニュアルに沿った面接の実施が可能となり、採用選考の客観性や公平性も担保されます

また、価値観やパーソナリティまで基準化しておけば、面接官ごとの評価のぶれを軽減し、企業に適する人材を安定的に採用できるようになります。

現場の社員も採用プロセスに加える

採用プロセスに現場社員を加えるのも、採用ミスマッチを防ぐ対策として有効です。なぜなら、ITなど技術専門職のスキル適性を、人事担当者が厳密に判断するのは難しい一面があるからです。そこで、現場メンバーが面接の一部を担うことで、より精度の高い採用選考の実現が期待できます

一点留意すべきは、現場社員に面接などの協力を依頼しても、採用活動参加へのモチベーションに個人差があるかもしれないことです。こうした点を踏まえ、当初より採用活動に積極的な現場社員を立候補制で募集したり、協力者に一定のフィードバックを提供したりするなどの工夫が求められます。

ミスマッチが起きにくい採用方法とは?

根本的にミスマッチが起きにくい特別な採用方法はあるのでしょうか?ここでは有効な採用方法として注目すべき2つの制度を紹介していきます。

アルムナイ採用

1つ目に紹介するのがアルムナイ採用です。ここまでミスマッチを防ぐための対策を何点か挙げてきましたが、いずれも採用段階、企業における「入口」対策であることにお気付きでしょうか?

採用=「入口」対策は、この記事の内容を実践すればある程度成果が見込めるので、結局、採用競合とはそこまで差がつかないのが実情です。逆に、「出口」に該当する退職対策については、どれ程の企業が整備できているでしょうか?

その点、ここで紹介するアルムナイ採用は、退職時や退職以降の「出口」対策として機能する画期的な方法となります。

>>アルムナイとは?人事・HR領域で注目される背景と大企業の導入事例

従来の「退職」のイメージと言えば、退社した企業とほとんど縁がなくなってしまう「お別れ」の印象が強かったかもしれません。しかし、アルムナイ採用は、専用のネットワークで退職者との交流を維持しながら、一旦企業を離れたOB/OGを再び社員として迎え入れる採用手法です。

アルムナイを通じた採用者は、既に会社の仕事内容や企業風土を熟知しており、即戦力として企業にマッチングしやすい最良の人材です。仮に、新規の人材を探そうとするなら、求人関連のコストや入社後の教育研修費が発生し、一定の採用ミスマッチのリスクも無視できません。

このように、アルムナイ採用は、一般的な採用法より低コストで収まるうえ、採用ミスマッチが起こる可能性を大幅に軽減できるのです。

>>電通・クラレ・荏原製作所・中外製薬4社分のアルムナイ採用事例集はこちら

リファラル採用

2つ目に紹介するリファラル採用は、自社の社員から有望な人材として友人・知人を紹介してもらう採用手法です。この方法も、従来のように採用コストがかさむことはなく、自社の事情に通じた社員による紹介なので採用ミスマッチのリスクも減らせます。

とはいえ、推薦されたから必ず採用の義務があるというわけではありません。採用プロセスでは、あくまで自社の採用基準に従い、面接などで候補者のスキルやパーソナリティを確かめたうえで判断することができます。

リファラル採用を社内でうまく機能させるには、求める人材像の周知や、候補者を多く紹介してもらえる動機付けとなる施策が必要です。

>>リファラル採用のメリットとデメリット及び導入時の注意点を解説