当記事は、これまでTechCrunchをはじめ、各所で「HR Technology Conference」のレポートをしてきた、株式会社ハッカズーク代表の鈴木仁志が、Josh Bersin 氏の記事「HR Technology in 2018: Ten Disruptions Ahead」の概要をかいつまんでまとめたものになります。
世界で一番大きなHR Techのイベントであり、20回目を迎えた「HR Technology Conference」。今年は2017年10月10日から13日の4日間、ラスベガスで行われ、日本からの来場者もとても多かったと聞きます。
参考として、私が2年前に書いた古い記事ですが、「HR Technology Conference」は、このようなカンファレンスです。
>>HR Technology Conferenceに見る人材領域イノベーションと日米温度差
このカンファレンスのクロージングキーノートを担当したJosh Bersin氏の発信する情報は、ラスベガスへ行かれた方はもちろん、それ以外のHR Techをフォローしている方も注目していらっしゃるのではないでしょうか。
このBersin氏が手がけた、A4で40ページほどのレポート「HR Technology Disruptions 2018 Report」が、11月3日に公開されました。こちらのフルレポートは登録してダウンロードが必要なため、内容を詳しくお伝えすることはできませんが、HR Techのトレンドを知るには良いレポートなので、ご興味のある方はご覧になることをお勧めします(リンクはページ最下部にあります)。
このレポートの概要を紹介する記事「HR Technology in 2018: Ten Disruptions Ahead」が同時に公開されているため(フルレポートの要約ではありませんが)、こちらの内容の一部をアルムナビ編集部の解釈をまじえて、抜粋したうえで簡単にご紹介します(ポイント5、9、10は割愛)。
1. オートメーションからプロダクティビティへ
既存のプロセスを自動化するツールはすでに「Nice to have(あると便利)」ではなく「Must have(必須)」であり、今後は個の生産性を高めるHR Techが必要であると言っています。今のHR Techの主流は個のエンゲージメントを高めるものですが、次のステップは個と個がチームとして生産性高く働くためのツールに進化していくことだと書かれています。
2. クラウド型HRMS・HCSは加速するが、すべての中心ではない
クラウド型HRMSの導入が加速することは疑いの余地がない事実ではあるものの、ユーザー企業の人事は、システムベンダー選定に数ヶ月から数年を費やし、システム導入にさらに数年をかけていますが、これがすべての中心ではないと認識して、一つ目のポイントでも書かれているようにチームとしての生産性をあげるためのチームマネジメント向上ツールに目を向けるべきたと述べています。
下の図では企業の人事側が下、タレント側が上に来ていますが、アルムナイなどの外部ネットワークも含めたチームマネジメントの重要性を訴え、上の図にもあるように「タレントマネジメント」が「ピープルマネジメント」になり、さらに「チームマネジメント」のようになってきていると言っています。このあたりのContingent WorkforceやProject Managementについては、フルレポートにより詳しく書かれています。
3. 継続的なパフォーマンスマネジメント
パフォーマンスを向上するために必須である「継続的なパフォーマンスマネジメント」を実現するには、OKRや1on1、リアルタイムフィードバックなど、新しいかたちが必要であると書かれています。今の市場にはこの領域を包括的にカバーしているHCMベンダーはいないとしており、ここでもこの領域を制すのは「チーム・セントリック」なパフォーマンスマネジメントツールを提供できるHCMベンダーがマーケットリーダーになると予測しています。
4. フィードバック、エンゲージメント、アナリティクスツール
まだ成熟してない領域であると前置きをした上で、エンゲージメントを測定し分析するための様々なツールが爆発的に伸びることを予測しています。マーケティングにおいて消費者や顧客の本音を引き出そうとするのと同じように、様々なツールや手法を駆使して本音を引き出すために、多くのHR Techが活用されるようになると述べています。
フルレポートでは、サーベイもパルスでリアルタイム性を追求するだけでなく、目的に合わせてオープンエンドの質問や匿名性を活用することの重要性や、Glassdoorのようなサービスやソーシャルメディアなどでのセンチメント分析についても詳しく書かれています。
6. イノベーションが盛んなリクルーティング領域
市場は変わっても、依然一番大きいリクルーティング領域にはフルレポートでも多くのページが割かれていて、プロダクト紹介なども充実しているので是非フルレポートでご覧ください。
採用ブランディングの部分では、アルムナイにポジティブな口コミをしてもらえるような、強力なアルムナイ・リレーションシップを築くことの重要性にも触れています。
7. Wellbeing領域の成長
Bersin氏が”Next Big Thing”としてあげるのがWellbeingの領域です。日本でも「健康経営」という言葉が、社員の身体的健康なのか心理的健康なのかという明確な定義がされていないのと同じように、Wellbeing領域は定義もサービスのカテゴライズもまだ明確ではありません。
そういった中でも、図のように「身体的に健康(Health)による保険料抑制」から「心身ともに健康な状態(Wellness)による燃え尽き症候群抑制」へと進化したものが、さらに「Wellbeing(心身ともに健康・快適・充足・幸福な状態)を実現してパフォーマンスの最大化」と進化していることを紹介しています。
8. ピープルアナリティクスの成熟と成長
長いこと注目されているもののなかなかモデルの議論だけで実践的な活用事例が多くないピープルアナリティクスの領域ですが、ようやく本気で投資をする企業が増えてきているため、これから成熟・成長していく領域と予測しています。
人に関する全てのデータを分析する中でも、特にONA(Organizational Network Analysis)に注目すべきとしています。EmailやSlackのようなコミュニケーションツールの分析はもちろん、フォーマル・インフォーマル問わず様々な関係を、チームや全社など異なる組織レベルで可視化して分析するもので、フルレポートではいくつかのツールも紹介されています。
ここ数年Josh Bersin氏の発信を追いかけていますが、今回のレポートで感じたのは、個を理解してエンゲージメントを高めてパフォーマンスを個別最適化する「タレントマネジメント」から、チームとして全体最適化してパフォーマンス向上にレバレッジを効かせる「チームマネジメント」へとHR Techの活用を進化させる必要性が強調されていたことです。
チームとしてのパフォーマンスの最大化をするためにも、個のエンゲージメントを高めるためにも、HR Techを上手に活用していただければと思います。
HR Techの概要については、私が2017年7月にTechCrunch Schoolでお話したこちらの記事もぜひご覧ください!
なお、Bersin by Deloitte によるフルレポート「HR Technology Disruptions 2018 Report」は、ダウンロードができるので、ご興味のある方はご覧になってください。
書いた人
ハッカズーク代表 鈴木 仁志
カナダのマニトバ州立大学経営学部卒業後帰国し、アルパイン株式会社を経て、T&Gグループで法人向け営業部長・グアム現地法人のゼネラルマネージャーを歴任。
帰国後は、人事・採用コンサルティング・アウトソーシング大手のレジェンダに入社。採用プロジェクト責任者を歴任した後、海外事業立ち上げ責任者としてシンガポール法人設立、中国オフショア拠点設立、フィリピン開発拠点開拓等に従事。シンガポール法人では、人事・採用コンサルティングとソフトウェアを提供し、ビジネスを展開した。
2017年、ハッカズーク・グループを設立し現職。自身がアルムナイとなったレジェンダにおいてもフェローとなる。HR Techについての知見も多く、寄稿や講演なども行っている。