2020年よりアルムナイネットワークを導入したドリームインキュベータ(以下、DI)。
以前からアルムナイとのつながりは強かったという同社ですが、改めてアルムナイとの関係構築を行った4年間で、どのような変化があったのでしょうか。
※こちらは過去にドリームインキュベータに在籍していた方専用のネットワークです
4年間で行ったアルムナイの取り組み
——2020年よりアルムナイネットワーク運営を開始したきっかけを教えてください。
河野:2020年はDI創業20周年の節目であり、また新たな経営体制に移行するタイミングでした。ミッション、ビジョン、バリューの策定をはじめ、社内の様々な制度の導入・見直しが行われました。アルムナイネットワークの取り組みもその一環として、プロフェッショナル人材プラットフォームの提供を目指し発足しました。
DIは元々アルムナイとの結びつきが強く、アルムナイネットワーク発足前からアルムナイとビジネス連携をしたりゴルフコンペを行ったりといった交流はありましたが、さらなる連携強化を目的に、アルムナイと現役社員、会社が三方良しの関係を築くことを目指しています。
——これまでの4年間で、具体的にはどのような取り組みをしてきたのでしょうか?
河野:代表的なものは、アルムナイと現役社員の交流イベント「DIalog」ですね。多岐にわたり活躍するアルムナイをゲストにお招きし、対談形式でお話を伺うイベントです。当社のアルムナイネットワークはコロナ禍の中で発足したため、オフラインでの交流イベント開催が難しい中、事務局メンバーが知恵を出し合い、オンラインでの交流イベントを開催することになりました。
コロナ明けの開催となった昨夏のDIalogでは新旧社長対談が実現し、またオンラインに加え、アルムナイの方をオフィスに招待して、現役社員とアルムナイとの初のリアル交流が実現したこともあり、100人超が参加する盛り上がりを見せました。
また先日はDIalog番外編として、お笑い芸人になったアルムナイが登壇し、コンサルタントと芸人の共通点を語ってくださるなど、ユニークな企画も行っています。
堀場:登壇者と面識がある人にとって近況を知る機会になっているのはもちろんですが、面識がない現役社員にとってもDIでの経験がその後のキャリアでどういきているのかという点について関心が高く、イベントでは毎回積極的に質問が出ています。
——その他の取り組みに関してはいかがですか?
河野:働き方の多様化の流れの中で、アルムナイを活用するチャンスが増えてきました。アルムナイの再雇用や業務委託なども行っていますが、ユニークな取り組みとしては、新卒の内定者研修でアルムナイの方に講師をお願いしています。
アルムナイはDIのカルチャーはもちろん、実際にプロジェクトにアサインされた後の動き方もご存知です。講師を依頼したアルムナイはDI在籍当時、非常に優秀なマネジャーでもありましたので、新卒社員にとってそのような方から学びを得る貴重な機会になっていると思います。
沼田:コンサルティングはクライアントサービスです。クライアントと同じ外部の視点を持ち、同時にDI内部の視点を併せ持つアルムナイは、研修講師として最適でしたね。
アルムナイ、社員の双方から「情報」が流れるアルムナイネットワークへ
——今後はどのような取り組みを行う予定でしょうか。
河野:アルムナイネットワーク発足からの4年間、コロナ禍でなかなかできなかったリアル交流の機会を増やしたいですね。
アルムナイと現役社員が直接つながりを持ったり、世代を超えたアルムナイ同士の斜めの交流を促していけるような場を設けたいです。そうやって幅広いアルムナイの方にネットワークの存在を知っていただき、活用しやすい土壌をつくっていければと考えています。
大きなところでは2025年に創業25周年を迎えるので、アルムナイの皆さんとも記念イベントを何かできればとイメージしています。リアルイベントを通じて、DIの変化を伝えていきたいですね。
沼田:再雇用やビジネス協業といった直接的なメリットが生じる施策はわかりやすいですが、そこに限定せず、情報連携をはじめ、ビジネスに間接的に関わるようなことも積極的に進めていきたいです。
先ほど三方良しを目指すと言いましたが、アルムナイ活動において、アクセントはあくまで現役社員に置くべきだと考えています。今在籍している社員にとっての価値を意識したいですね。
例えば、業務にとってプラスになるのはわかりやすい価値です。プロジェクトでインタビューをするにしても、アルムナイに声がけができればやりやすいでしょう。さらに言えば、アルムナイにキャリア相談もできるといいですよね。
その際、ポイントは情報です。どの情報にどう価値を見出すかは人それぞれですが、情報は誰もが欲しいもの。クローズドな場所で、発信者が分かる新鮮な情報が流れることは、現役社員、アルムナイの双方にとって価値あることだと考えています。
アルムナイネットワークを運営するのは会社ですが、あくまでもプラットフォームですから、登録者が自由につながりをつくり、情報がスムーズに流れるような環境を整えていきたいですね。そうやって価値を増幅させることで、三方良しも実現できると思っています。
堀場:情報交換の場としてネットワークを活用いただけるように、アルムナイが発信しやすい雰囲気を醸成したいですね。現状はDIからの発信が中心になってしまっていますから。
——アルムナイからの発信内容について、具体的なイメージはありますか?
堀場:活動報告を投稿いただけるとうれしいですね。本を出版されたり講演をされる際にSNSに投稿するように、アルムナイネットワークでもどんどん発信いただけるといいなと思います。
沼田:オープンなSNSと違ってアルムナイネットワークはクローズドなので、宣伝するには狭すぎるでしょうけど、その分裏話や突っ込んだ話もしやすいはず。Facebookとはまた違うリアクションがあるのではと思います。
堀場:あとは、ジョブマッチングですね。アルムナイ同士であれば「何がどのくらいできるのか」を理解しやすいですし、たとえ一緒に働いたことがない人であっても、DIアルムナイなら声をかけやすいと思います。実際、「DIアルムナイをスカウトしたい」といった話も耳にしていますので、ネットワーク内でぜひ投稿いただければと思います。
とはいえ、最初の一人として投稿するハードルがあるとは思うので、ハードルを下げる工夫は考えたいですね。この記事もその一つのきっかけになればと思います。
アルムナイの取り組みによるマイナスはない
——「現社員とアルムナイの交流を促すと退職者が増えるのでは」という懸念の声もあります。その点はどう考えていますか?
沼田:当社でも導入時、そういう声は当然ありました。
ただ、4年ほどやってきた私見としては、「アルムナイとの交流が原因で社員が辞めることはあるのだろうか」と疑問に思います。優秀なメンバーはアルムナイと交流をせずとも、タイミングが来れば違う道に進みますから。
堀場:当初は現役社員のアルムナイネットワークへの登録はシニアポジションのメンバーに絞っていましたが、今はもう少し下のレイヤーのメンバーまで対象を広げることを検討しています。
また、実際にアルムナイネットワークを運営してきた4年間で、会社全体のアルムナイに対する見方や空気感も明らかに変わったのを感じます。離職への懸念以上にプラスが大きいですね。
——どういうことですか?
堀場:当初はアルムナイの取り組みに懐疑的な声もありましたが、交流イベントなどを通じてアルムナイとの距離が縮まりました。アルムナイがオフィスに来ることにウェルカムなムードが醸成されつつあり、最近では「オフィスの近くに行くから寄ります」といった連絡をアルムナイからいただく機会も増えました。
社員が今後のキャリアを考える時も、外で活躍するアルムナイを遠い存在ではなく、リアルな存在として見られるようになったように感じます。
採用ページにはアルムナイのインタビューを掲載していますが、「DIで経験を積むとこういうキャリアが広がるのだな」と、採用候補者だけでなく、若手社員も興味を持って読んでくれていますね。
そうやって外の世界で活躍するアルムナイの存在を知ることは、社員のエンゲージメント向上に寄与し、結果として会社全体に良い影響をもたらすと感じています。
堀場:また、世の中の変化も感じています。採用セミナーでは「このアルムナイはDIでどういう経験を積んできた人なのか」といった質問がよく出るのですが、生涯雇用が崩壊しつつある今、退職後のキャリアへの関心も大きくなっていますから、アルムナイの活躍を紹介できることは採用面でもプラスです。
沼田:総じて、アルムナイの取り組みを行ったことでマイナスに感じることはないですね。
アルムナイネットワークの効果は「目に見えない」部分にある
——アルムナイネットワークは効果測定が難しい面もあります。効果をどのように測っていますか?
河野:登録率やアクセス数などの指標をマンスリーで見てはいますが、ギスギスせずに運営すること自体に意味があると思っています。なのであえて数値目標は置かず、「退職後もゆるくつながり続けることがいつかメリットになる」くらいに考えています。
——ロジックと成果をシビアに求められるコンサルティング企業の皆さんですが、アルムナイの取り組みに関してはふわっとしているのですね。
沼田:確かに当社は「それ、意味あるんですか?」とすぐに言う人間の集まりですが、僕はアルムナイネットワークの責任者として、「いちいちそういうことを言うんじゃないよ」と言い続けるのが役割だと思っています(笑)
というのも、アルムナイの取り組みは目に見えないところにこそ効果があるように思うんです。
例えば、過去には退職後、DIと距離を感じていたアルムナイもいたと思いますが、この4年間でDIalogに古い世代のアルムナイが参加してくれるようになっています。「最近のDIは変わったな」とアルムナイに思ってもらえていることこそ、一番の効果ではないでしょうか。
河野:社員の心理的安全性も大切です。会社がアルムナイの取り組みを行うことは、「アルムナイになっても大切にしてもらえるんだ」という社員の安心感につながりますし、採用候補者の方にも「安心して働ける会社」と感じていただけるように思います。実際、採用面接時に志望動機の一つとして「ホームページにアルムナイが取り上げられているのをみて、退職した社員も大切にしてくれる会社だと感じたから」と言っていただくこともありました。
また、人事では退職面談でアルムナイネットワークのご案内をしていますが、最近は退職者のほぼ全員が登録してくれるようになりました。そういう意味で、“辞め方改革” にもつながっていると実感します。
——最後に4年間を振り返り、これからアルムナイの取り組みを始める企業にアドバイスはありますか?
沼田:「アルムナイ」というキーワードはこの4年間で確実に存在感を増しています。退職者も人的資本として考える世の中の流れもありますし、導入のハードルは下がっているのではないでしょうか。
懸念の一つが「離職につながってしまうのではないか」ということだと思いますが、先ほどお伝えした通り当社の場合は杞憂でしたし、すでにアルムナイネットワークを導入している企業に聞けば、おそらくほとんどの人が「心配ない」と答えると思います。どんどんやったらいいと思いますね。
堀場:コロナ禍を経て働き方も多様化し、副業や業務委託などで外部人材に業務を依頼することも一般的になりました。その際、プロトコルを分かっているアルムナイに業務をお願いできれば非常にスムーズです。
当社でも、退職後にDIの仕事を業務委託で受けながら起業をする選択をした人がいます。そうやって退職してからも一緒に仕事ができるのはお互いにとってプラスですよね。
おそらくどの会社もアルムナイの取り組みは手探りであり、試行錯誤はありますが、アルムナイネットワーク導入前から退職者の動向を追いかけていたことを考えれば、それほど手間が増えているわけでもありません。
むしろプラットフォームができたおかげで追いやすくなったと考えればプラスであり、少なくとも当社の場合、現状アルムナイの取り組みでマイナスに感じていることはありません。恐れずに取り組みを進めていただければと思います。
※こちらは過去にドリームインキュベータに在籍していた方専用のネットワークです