出戻り入社した人の意外な本音「再入社してよかった。でも、恥ずかしさも正直ある」

他社に転職、独立した退職者を再び自社に呼び戻す、再雇用に着目する企業が増えています。現役世代の再雇用はカムバック制度、ジョブリターン制度、アルムナイ採用などとも呼ばれ、制度を整える動きも。

そこで、過去に勤めていた企業に再入社した人にお話を伺いました。「再入社は全く考えていなかった」という2人が、なぜ古巣企業に戻ることにしたのか。インタビューを通じて、再入社者の意外な気持ちも見えてきました。

大英産業株式会社
中尾 浩一さん (写真右)
2001年大英産業に新卒入社し、新築マンション、新築戸建て、不動産売買仲介の営業、戸建店舗の店長を経験したのち、2018年9月に退職。不動産企業へ転職し、2020年1月に大英産業に再入社。現在は宅地分譲の営業に従事 

川井 晋さん(写真左)
2005年大英産業に新卒入社し、新築マンションの営業、用地仕入れ、新卒採用担当、不動産売買仲介の営業を経験したのち、2011年5月に退職。不動産投資営業を経て独立し、ジェラート店を経営後、コンサルティング業務に従事。2018年8月大英産業に再入社し、現在は課長として新築マンションの用地仕入れを担当 

会社としてまだまだな部分を、どうにかしたいと思えた

——まずはお二人の再入社に至るまでの経緯を教えてください。まずは川井さん、いかがでしょう?

川井:2005年に新卒で入社し、2011年に一度退職しました。独立のために資金を貯めたかったのと、富裕層を相手に営業をすれば出資のチャンスも巡ってくるのではと思い、不動産投資の営業として転職しています。

結果として数名からお声掛けをいただき、熊本でフランチャイズのカフェ&ジェラート店を始めました。5年半で3店舗を出店したのち、北九州に戻って、次は当時カフェのコンサルをしてくれていた人の会社に入り、飲食や不動産のコンサルティング業務を行っています。

そのころに新卒時代に私を育ててくださった大英産業の役員とお会いする機会があって。軽い感じで「戻っておいでよ」と言ってもらい、「戻らないですけど、コンサルで入らせてください」と話したことがきっかけで、大英産業のコンサルをすることになりました。

——そこからなぜ再入社をすることになったのでしょう?

川井:コンサルの仕事を通じて知り合った不動産企業の社長から「うちにこないか」とお声掛けいただいたことがきっかけです。なんだかんだ不動産の仕事がしたい気持ちもあり、悩んでいて。

ひとまずは大英産業とのコンサルティング契約があったので、コンサル会社を退職する旨を伝えなければと、コンサルで雇ってくださった役員に話をしたところ「いやいや、それならうちに入ってよ」と言われました。確かになぁと思って、再入社を決めた次第です。

——何が決め手になったのですか?

川井:結局、ずっとお世話になっているのは大英産業だったし、働いている人たちが本当に良い人なんですよ。実は僕がお店をやっていた頃、何度か大英産業の人たちが北九州から遊びに来てくれて。

カフェ&ジェラート店時代の川井さん

——え、お店は熊本でしたよね? 

川井:うれしかったですね。社長も2〜3回来てくれました。そういう人間臭さがある会社なんです。正直会社としてはまだまだだと思う部分もあるんですけど、まだまだな部分をどうにかしたいと思えました。

そして最後は、2日にわたり、10時間以上もかけて説得してくれた社員の方と、僕を誘ってくれた役員の熱い気持ちに負けましたね。僕を育ててくれた上司でもあり、昔から今に至るまで、ずっと尊敬している方ですから。

「最近どう?」の電話が戻るきっかけに

——続いて中尾さん、再入社に至るまでの経緯についていかがでしょう?

中尾:自分も新卒で大英産業に入社して、別の不動産企業への転職を理由に2018年退職しています。その時点で17年ほど大英産業にいましたので、別の仕事をしてみたいと思ったのが退職のきっかけです。一度外を見てみたい気持ちがありましたね。

——外の世界はどうでしたか?

中尾:とにかくハードでした。仕事が厳しいことは転職前からわかっていましたが、想像以上で……。多分、自分が勤めていた時の同僚は全員辞めたんじゃないかな。僕も1年半ぐらいで退職して、大英産業に戻りました。

——大英産業に戻るきっかけは?

中尾:一度は辞めていますので、実は自分の中に戻るという選択肢は全くありませんでした。

ただ、心優しい元上司の方々が「最近どう?」と時々電話をくださっていたんです。最初は「順調です」と言っていましたが、転職して1年を過ぎたあたりから「きついです」と話すようになって。ある日「そろそろ辞めないと体がやばそうです」と話したところ、「うちに戻ってきたらいいんじゃない?」と。

それでも一度は断ったんですけど、後日また電話をくれて。その時に「戻らせてください」とお伝えしました。忙しくて転職活動をする時間もなかったし、いよいよ心身ともに危険な状態だったので、お声掛けいただけたのは本当にありがたかったですね。

——「戻っておいで」の一言が救いの手になったのですね。全く考えていなかった再入社をすることに、不安はなかったですか?

中尾:当時は「生きていかなければ」という生存欲求が先に来ていたので、不安を感じる暇もなかったです。「渡りに船だ」という感じで、藁にもすがる想いとはまさにこのことだな、と。捨て犬のようだった自分を拾ってくださって、感謝の気持ちでいっぱいでした。

他の会社を経験したことで「良い会社」だと再認識

——再入社して、総じてどうでした?

中尾:よかったです。離れていた期間は1年半ですけど、「良い会社だな」というのは改めて感じています。大英産業には、チームワークや人を大切にする社風が当たり前のようにあるんですよ。

中尾さんと同僚の皆さん

川井:わかります。もちろん多少嫌な仕事はありますけど、少なくとも嫌な人、悪い人はいない。これって珍しいことですよ。良い会社だっていうのは僕も思いましたね。

中尾:前は何も思わなかったですけど、「この人の個性だったらこういう仕事ができるだろう」と上司がちゃんと考えて、各自に合った仕事を与え、言葉をかけてあげている。そのすごさに初めて気づきました。

川井:僕も再入社して良かったと思っています。やりたいようにやらせてくれて、伸び代とやりがいしかないです。

それに、離れている7年の間にブラックからホワイトに変わって、めちゃくちゃ働きやすくなっていて。ちょっと楽すぎると思うことはありますね(笑)

——お二人とも転職経験がありますが、再入社だからこそのやりやすさやメリットに感じることはありますか?

川井:入社して間もない頃から内情を理解した上で外から見た意見を言えるのは、再入社した人の良さかなと思います。会社として外の情報を欲しがっていますし、人を否定しない社風なので、言いやすい雰囲気もありますね。

中尾:自分の視点が変わったのは一番大きなメリットですね。外の会社に行って改めて中に入ってみたら、会社や自分自身を客観的に見ることができるようになりました。以前こだわっていたことに、良い意味でこだわらなくなった。

あとは「どうせ1回辞めた身だしな」と思えることで、チャレンジ精神が湧いてきやすいのもあると思います

——逆にマイナスに感じることはありますか?

中尾:積み上げてきたものを自分から打ち切っていますし、役職も低いところからのスタートにはなります。納得して入社していますけどね。

川井:同感ですね。たとえ能力が高かったとしても、一度下がったところから覆すのは難しい。積み上げてきた人が評価される会社だとは正直思います。それが良さでもあるからバランスは難しいですけど、見直す余地はあると考えています。

戻るときの壁は「再入社=負け」の気持ちにある

——お二人のように再入社する事例は増えたらいいと思いますか?

川井:再雇用の推進は絶対にやった方がいいですよ。人柄がわかっている分、知らない人を新しく採用するよりリスクは少ないですから。

あと、採用コストの問題。人を採用する時、まずは知り合いからっていうのは鉄則だと思いますし。採用コンサルに支払うお金を準備金として再入社してもらう社員に払った方がよっぽどいいと思う。

中尾:自分もそう思います。他にも戻ってきてほしいなって思う人も多いですし。

——ご自身の経験を振り返って、再入社する人を増やすために必要なことは何だと思いますか?

川井:退職した人の理由をしっかり正確に聞いて、蓄積して、変えることができるところは変えること。少なくとも僕が入社してから退職した優秀な同じ事業部の人たちは、大体同じ理由で辞めています。

自分自身を振り返って思いますが、退職の本音ってなかなか言わないですよ。役員や上司であればなおさらです。でもそこを聞き出せないと、本質的なところは改善できないのかなと思います。

中尾:自分の場合、「良い地位を獲得したい」「どれだけできるか挑戦したい」と思って転職しました。

だから元の会社に戻るというのは、自分にとっては負けなんですよね。再入社は「チャレンジに失敗して負けました」と認め、みんなにそれを知らせることでもあるわけです。

辞めた人と話すこともあるんですけど、戻ってこれない理由で大きいのは、そういう気持ちの部分なんじゃないかと感じています。

川井:僕にもその気持ちはあります。今回再入社した人としてインタビューを受けていますけど、最初に取材を打診された時は正直、「ダサい」と思いました。恥ずかしい感覚が少なからずあります。

中尾:自分もです。もともと17年この会社にいて、離れていたのも1年半ぐらいでしたから、気持ち的にはずっとこの会社にいる感覚でいます。だから余計に、辞めてもどってきたことをあえてみんなに知られる機会を「待ってました!」とは思えない。

戻ってきたことを後悔しているわけではないですし、入社してしまえば頑張るしかないですけど、そういう気持ちの部分は入社前の壁としてありますね。

——再雇用を促進する企業の中には、転職や独立という挑戦をしたこと自体を評価する声もありますが、再入社する側の心境は異なるのですね。どういうケアや声掛けがあると、気持ちは楽になりそうでしょうか?

中尾:みんなに電話して回るわけにはいかないでしょうけど、何かしらのかたちで定期的につながりを持って、気持ちの確認みたいなことができると少しは楽になるんじゃないでしょうか。

それぞれ考え方があるので一概には言えないですけど、別の道を探そうとしているタイミングで、「戻っておいでよ」と言ってみるしかないのかなと思います。そうすれば多少なりとも戻ってきやすくはなる。とにかく会社側から声を掛け続けるしかない気がします。

川井:僕も、定期的に連絡を取ることが全てだと思います。人財開発課の担当者が戦略的に連絡をするよりも、同僚や上司など、仕事で絡んでいた人たちが連絡をくれたら、やっぱりうれしいですし、忘れないですよ。忘れないっていうのが大事だと思います。

再雇用制度があってもいいとは思いますけど、かっちりやりすぎるとしらけるような気もしますし、いずれにせよ接点を取り続けることが前提になるんじゃないでしょうか。

中尾:そもそも辞めた人から連絡を取るって、できないと思います。だからこそ、会社側が声をかけてくれることが「大英産業で働く可能性がある」と伝えることになる。再入社を選択肢の一つとして持たせてあげるのは、会社側のアクションでしかないと思います。

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取材・文/天野夏海