最近、大企業を中心として目にする機会が増えつつある「アルムナイ採用」。一体どのような採用手法で、なぜ注目されているのか。メリット、デメリット、実施の際のポイントを解説します。
アルムナイ採用=退職者の再雇用
アルムナイとは、卒業生を指す言葉。HR領域では「企業の卒業生、退職者、OG/OB」を意味します。つまりアルムナイ採用とは、過去に自社で働いた経験がある退職者を採用すること。退職者再雇用やカムバック採用、ジョブリターン採用などとも言われます。
>>再雇用、出戻り、ジョブリターン、カムバック、アルムナイ採用の違いとは?
アルムナイ採用が大企業に注目される背景
人材獲得競争が激化する中、リファラル採用やダイレクトソーシング(ダイレクトリクルーティング)、アルムナイ採用など、新たな採用手法に目を向ける大企業が増えています。それぞれに共通しているのは、従来の転職サイトや人材紹介サービス任せの採用ではなく、自社が持つつながりを通じた採用という点。主に以下のメリットがあります。
- 採用費を抑えられる
- 自社にマッチした良い人材が採用しやすい
- 転職採用市場では出会えない、転職を検討していない層へアプローチができる
その中でアルムナイ採用が着目されている背景として、人材の流動化があげられます。転職者数はコロナ禍で減少したものの、2015年から右肩上がり。今後もこの傾向は続くと予想されます。
転職者数が増えるということは、企業の退職者数も増えるということ。終身雇用時代は退職が少なかったため、アルムナイ採用の対象は限られていましたが、この先退職は増加傾向にあります。つまり採用チャネルとして看過できなくなりつつあるのです。
アルムナイ採用を導入するメリット
前述したメリットのほか、アルムナイ採用ならではのメリットもあります。
低コストで即戦力を確保できる
過去に自社で働いていた経験があるので、すでにサービスや社風への理解があります。実力面はもちろん、マインドや環境面でのフィットも早いのが最大のメリット。
再入社を経験した人を対象としたアンケート調査でも、再入社のメリットとして「業務のスムーズな開始」と「組織へのスムーズな再参入」があることが見て取れます。
また、アルムナイ採用を導入している企業の理由も、「過去に社内で実績があり、活躍が見込めるから(19.3%)」「社内の仕事内容に関する知識や理解があるから(19.1%)」が上位となっています。
採用後の離職率が低い
アルムナイは一度自社を辞めている人。良いところも悪いところも理解した上で再び働くことを選んでいるため、ミスマッチが起きにくく、覚悟を持って出戻る決心をしているため、離職につながりにくい特徴があります。
企業ブランディングが強化される
大前提として、嫌いな会社に戻って再び働こうとする人はいません。つまりアルムナイ採用ができることは、良い会社だという証明になります。
中にはアルムナイ採用で入社した人に会社説明会に登壇してもらったり、再入社した理由についてインタビューした記事をキャリア採用ページに掲載したりといった動きをする企業も。
また、多様な人材を受け入れているという観点では、ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みの一つとしてアピールすることもできそうです。
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「退職者の声」の重要性が増している?事例から考える、採用ブランディングとアルムナイの関係
「隣の芝は青い」を理由とした退職を防げる
特に新卒社員の場合、自社のことしか知らないゆえに、隣の芝が青く見えてしまうことがあるもの。そのような社員がアルムナイ採用で入社した人の体験談を聞くことで、外の世界を擬似体験する効果が期待できます。
隣の芝が必ずしも青くないこと、他社と比較した自社の良さを語れることは中途社員と同様ですが、一度外に出てまた戻ってきている人だからこそ、よりリアルな説得力を持つ点が大きな違いです。
アルムナイ採用を導入するデメリット
次にアルムナイ採用のデメリットについて考えます。
待遇面の不公平感を与える可能性がある
再入社者の満足度は総じて高く、退職前と比べて再入社後の満足度は全体的に上がっています。その中で一つだけ満足度が低下したのが「給与・報酬・評価」です。
従業員数別の結果では、会社規模に反比例して、再入社後の年収と職位が低下しています。
大手企業ほど、評価制度が終身雇用を想定したものとなっているケースは多いもの。その場合、ずっと働き続けている同期や同僚と待遇の差がつきやすく、不満の種になる可能性があります。
とはいえ全体的な満足度は高いため、入社後のフォローをしっかり行うことである程度カバーができそうです。
現職社員に対する退職促進の懸念
再入社者を受け入れることにより、「辞めてもまた戻ってこられる」という勘違いを招き、結果として現従業員の離職につながることを懸念する声を耳にします。
ただ、アルムナイ採用をするといっても、希望者全員を採用するわけではありません。選考を行った上で採用をするか否か決めるのは、通常の中途採用と同様。
安易な退職者を増やさないためには、「アルムナイ採用とはいえ、希望者全員を採用するわけではない」ことを明確に伝えることがポイントとなります。
アルムナイ制度のメリット・デメリットについて詳しく知りたい方はこちらの記事により細かくまとまっていますのでご覧ください。
>>アルムナイ制度のメリット・デメリットを企業側・退職者側の観点でまとめてみた
アルムナイ採用を実現する際のポイント
退職体験の見直し
アルムナビの調査では、退職者の約半数が「退職の意思を伝えてから実際に退職するまでの間に、不快な思いをしたことがある」と回答。そのうち半数以上が企業への気持ちについて「好意が薄れた」ないしは「嫌いになった」と答えています。
「ピーク・エンドの法則」によると、「体験」への印象は、一番良い瞬間と終わりの経験によって大きく左右されます。これを社員に置き換えると、企業への印象を決定づける大きな要素のひとつが退職時の体験だということ。
満足度高く仕事をしてくれていたとしても、退職時の対応が悪ければ、会社への印象はマイナスに転じてしまう可能性が高いのです。
従業員の退職の意思表明から、退職が完了するまでの一連の施策「オフボーディング」を見直し、自社への印象が良いまま送り出すことが重要です。
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退職者対応の見直しで社員の定着率が上がる? 転職時代に重要性が増す「オフボーディング」を解説
退職後の交流
アルムナイ採用制度や窓口を用意していたとしても、自ら一歩を踏み出し、応募をするのは勇気がいるもの。また一緒に働きたい旨を伝え、背中を押すためにも、アルムナイと現従業員の退職後の交流は重要なポイントとなります。
事実、パーソル総合研究所の調査によると、過去5年以内に再入社をした人の75.7%が、以前の上司や同僚などの人づてで再入社にいたっています。
企業側の受け入れ体制
上記調査によると、再雇用制度を利用して再入社にいたった人はわずか4.0%。この数字だけ見ると制度はさほど重要ではないように思えますが、「アルムナイ向けの施策」の有無で、アルムナイの再入社意欲には2〜3倍の差が生じています。
つまり、アルムナイと退職後もつながり続けようとする企業の姿勢そのものが、アルムナイ採用を促すといえます。先述した退職後の交流についても企業として取り組むことで、よりアルムナイ採用は活性化されそうです。
「退職者=裏切り者」だったのは過去の話
終身雇用時代、退職は珍しいことでした。それゆえに裏切り行為のように思われてしまうこともありましたが、冒頭で紹介した通り、転職者数は右肩上がり。
定年退職以外に辞める人が出てくるのは当たり前になる中、アルムナイ採用などの価値に気づき、自社の退職者へのスタンスを変えようと考える先進企業も出てきています。
「退職者=裏切り者」だったのは過去の話になりつつあります。「退職者=かつて一緒に働いた仲間」と考えを切り替えることが、アルムナイ採用を始める第一歩となるはずです。
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